見聞きする機会が増えた、「火星移住計画」。その足がかりとなる「有人月探査計画」がドナルド・トランプ大統領の誕生以降、アメリカで加速している。なぜ、月は「探査の場所」だけでなく「開発利用の場所」として注目を集めているのか? 清水建設宇宙開発室、JAXA出身の宇宙ビジネスコンサルタント・大貫美鈴氏の新刊『宇宙ビジネスの衝撃――21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ』から、内容の一部を特別公開する。
トランプ大統領の誕生で
急加速するアメリカの「有人月探査計画」
2016年、世界を驚かせたドナルド・トランプ大統領の誕生によって、宇宙ビジネス業界の関係者にも、驚きの出来事がありました。
2017年12月に、トランプ大統領は「有人月探査計画」をNASAに指示する文書に署名して、人類を再び月に送る計画が動き出したのです。
実は、地球温暖化対策など科学分野には関心が低いとみられているトランプ大統領ですが、宇宙開発に関しては大統領選挙中から有人宇宙探査を進めるなど積極的な言動がありました。
選挙後には、私が所属する宇宙団体「スペース・フロンティア・ファンデーション」のエグゼクティブメンバーも、大統領移管におけるランディングチームのメンバーとして入っていました。商業宇宙政策について助言が求められてのことです。
また選挙直後にできた戦略・政策フォーラムにはロッキード・マーチンやボーイングなどとともにアマゾン創業者のジェフ・ベゾス、スペースXとテスラの創業者のイーロン・マスクが、委員として加わっていました。ウーバーなども委員になっていたので、新しい企業からの意見も取り入れたいと考えたのだと思います。
その後、パリ協定を離脱するならば委員会を抜けるとしていたイーロン・マスクを含めて他のメンバーの去就やこの委員会そのものがどういう状況かは不明ですが、最初の頃は委員会が招集されていた様子が公開されています。
トランプ大統領は、2017年10月にアメリカの宇宙政策のトップ組織である「国家宇宙評議会」を復活させています。ペンス副大統領が統率するこの評議会は大統領に直結した政策組織で1989年に設立された後、1993年に休止されたままになっていました。
評議会では、ムーンエクスプレス、スペースX、ブルーオリジン、ULA、ロッキード・マーチンなどの月開発関連企業も参加して意見を述べています。今回の有人月探査の新計画は、このような流れの中でつくられた方針です。その狙いは、民間の活力を取り入れて官民連携で進めていくことにあるでしょう。