「電話ができないなら、この治療は受けられません」

タブレットによる「遠隔手話サービス」成田国際空港の第3旅客ターミナルご案内カウンターに設置されている、タブレットによる「遠隔手話サービス」。国内の病院には大分県立病院、東京・ナビタスクリニック等しか設置されていない

 驚いた女性は「FAXで連絡できます」「社会人の子どもは耳が聞こえるので、代理電話をしてもらいます」と医師に伝えたが、「本人からの電話でないとダメです」と取り合ってくれなかった。女性とご主人は失意と絶望で泣いたという。

 7ヵ月後、その女性は同じろう者で乳がんの治療を受けている東京都在住の皆川明子さんと出会った。皆川さんがその女性に「別の病院でセカンドオピニオンを取ったらどうか」と提案したところ、FAXの送受信でも抗がん剤治療を受けられるという病院が見つかった。だが、治療のかいなく、その女性は治療開始後、半年で亡くなった。

 皆川さんは「私たちろう者は、健聴者の方より情報量が圧倒的に少ないため、女性はセカンドオピニオンについて知らず、治療の空白期間が7ヵ月もできていました。もっと早く抗がん剤治療を受けられていたらと思うと、残念でなりません」と悔しさをにじませる。

 大学病院の腫瘍内科の医師に、この話について意見を聞いたところ、「例えば、うちの病院では外来化学療法室や診察室のフロアにFAXがありません。医事課や医局にFAXが届くことになりますが、リアルタイムでやりとりするためには工夫が必要になり、却下されるかもしれませんね」と話す。

 しかし、病院側が対策を打つことはできる。

 近年、コンピューターやタブレットのテレビ電話機能を用いて、手話通訳士が対話する人の間に入り、手話を通訳するサービスが普及している。

 例えば、昨年、損害保険ジャパン日本興亜が「自動車保険の事故対応時の場面」で、三菱UFJ銀行が「キャッシュカードの紛失・盗難時の取引停止手続きの場面」で、このサービスを開始した。羽田空港や成田国際空港にも設置され話題になったが、一般的な社会の認知度は低い。