「トップアイドル以外」という未開拓の新市場

SHOWROOM前田裕二が語る、「共感マーケット」という新市場ムーギー・キム
ブルー・オーシャン・シフト研究所日本支部 代表
慶応義塾大学総合政策学部卒業。INSEADにてMBA(経営学修士)取得。外資系コンサルティングファーム、投資銀行、米系資産運用会社、香港でのプライベートエクイティファンド投資、日本でのバイアウトファンド勤務を経て、シンガポールにてINSEAD 起業家支援企業に参画。
INSEADで師事したチャン・キム氏に任じられ、世界中に拠点を有するブルー・オーシャン・シフト研究所の日本支部の代表として、新刊『ブルー・オーシャン・シフト』では、付録の日本ケースの執筆を担当している。著書に『一流の育て方』(ダイヤモンド社)『最強の働き方』(東洋経済 新報社)、『最強の健康法』(SBクリエイティブ)などがある。

ムーギー:SHOWROOMの配信者の中で、ファンが多い人たちは、やっぱりAKB48などの有名なアイドルで、御社の収益の大半も、そこからくるものなのでしょうか。

前田:いえ、どちらかというと、もっと素人に近いアマチュア~セミプロの演者が収益上は一番大きなインパクトをもっています。僕らは、有料アイテムのギフティングの動向を考える際に、ヘッド配信者とテール配信者に分けて観察しています。

ムーギー:テレビによく出る人と、出してもらえない人ということですか?

前田:簡単に言えば、そうです。認知度と人気度の4象限で整理した方が、より正確かもしれません。ヘッドは認知>人気の演者、テールは人気>認知の演者、という切り分けです。一見すると世の中ではヘッド側の演者の方がマネタイズパワーは大きいように思われますが、こと直接課金の市場となると、必ずしもそうではありません。この文脈でのヘッドは、主に広告市場でのマネタイズを得意とします。テール演者の方が実際は濃いファンを多く抱えていて、直接課金市場においてより大きな収益を上げることが多いのです。
 1つ例外があるとすると、認知と人気の両方を兼ね備えているケースも存在します。例えば、AKB48のトップメンバーがそれにあたります。総選挙でランクインするような子は、いつ配信してもすぐ1万人以上の視聴者が集まります。アイドルマーケットのピラミッドをつくると、頂点は彼女たちであって、ヘッド文脈の広告市場、テール文脈の直接課金市場の両方を取り込める、稀有な存在と言えます。ただ、ライブ配信市場の広がりという観点でより重要なのは、いわゆる「地下アイドル」と言われるテール演者、そしてその更に下方に位置するアイドル予備軍の演者です。笑い話のようですが、アイドルの「地下階層」は深く、地下5階まである、とも言われています。

ムーギー:地下アイドルと呼ばれる子たちですね。メジャーにはなれないけど、独特の雰囲気があってコア層には刺さるみたいな。それが地下5階まで…深い。

前田:地下アイドルというのは本当に奥深くて、いつもお客さんが数名という中でやっているチームもあります。僕はお客さんがゼロのライブも見たことがあります。リハーサルかと思ったら本番でした(笑)。こういう子達を、SHOWROOMでエンパワーしていきたい。熱量があるけどまだ結果が伴っていない演者こそ、ファンをつけて、下から思い切り突き上げてきて欲しいのです。

ムーギー:その子たち、メンタル強くなりそうですね。

前田:はい。この、強いメンタルを持ったテール演者がビジネス的にも極めて重要です。繰り返しですが、SHOWROOMは、AKB48や乃木坂46などのメンバーも配信していることから、売り上げの柱もトップアイドルや有名人だろうと思われがちですが、実際はトップではないその他の演者が収益の中心になっています。

ムーギー:まさにブルー・オーシャン戦略のポイントですね。競争が激しい、既に売れている人たちをマネタイズする従来のアイドルビジネスと違って、他の人たちが無視していた、アイドルのタマゴ層、まだお金につながっていない人たちをマネタイズしてあげる。

前田:彼女たちとは本当にWIN-WINの関係にあります。昨年、SHOWROOMはモバイルアプリ動画の収益部門で日本一になりましたが、これは単に、収益が大きい、という話ではありません。SHOWROOMの収益は演者サイドにシェアされるので、この収益の裏側には、これまでのメディアの仕組みでは活躍できなかったり、生計を立てられていなかった配信者たちがいます。その子達が新しく生きる道を創出できたことは、エンタメ業界における大きな革命だと思っています。
 テレビに出ていない素人の配信者でも、SHOWROOMであればスタートしたその日から500人、1000人に見てもらえる。毎日、愚直に努力を継続していけば、誰でも100人くらいの固定ファンをつくれます。本当に、誰でも。例えば、50代の女性にも、しっかりファンがついているんです。

ムーギー:誰もがファンを持てるというのはすごい。

前田:もちろん、正しい方法で努力することは重要です。むやみやたらに配信してファンをつくるのは難しいのですが、実はファンを増やすノウハウがきちんとあります。定性・定量両方のアプローチで攻めるんですが、僕らは特に、定量面にフォーカスを置いて演者を育てています。具体的には、まず、ファンの数と売り上げを伸ばすために、配信者の現状をデータ分析します。ファンルーム投稿数や課金ユーザー数など、売上やファン数の伸びに貢献度の大きい重要な変数を洗い出して、レーダーチャートで配信者の総合力を見ています。
 チャートが真円を描く配信者に比べて、相対的にどの要素が劣っているのか、やるべきことは何かを科学的なデータに基づいてアドバイスしているんです。

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ムーギー:人によって最適な姿は違うと思うのですけど、それも意識したアドバイスですか。

前田:もちろんそうです。アドバイスにおいて最も重要なことは、相手を「知る」こと。その配信者の状態を正しく理解して、それに応じた適切な治療法を提示することを心がけています。最初は会議室に100人くらい呼んで、自らノウハウを伝えていたのですが、あるタイミングであまりに労働集約的だと限界を感じて、オーガナイザーを間に挟んで、演者指導を委ねました。これも、サービスがスケールした一因となりました。