中国の配信サービスから着想した「オーガナイザー」という仕組み

ムーギー:オーガナイザーというと?

前田:SHOWROOMと配信者の間に入る人です。実はこれも中国の配信サービスから学んだことでした。YYの数字を見たとき、売上の伸びに対する販促費が異常に低かった。つまり、特別なプロモーションをやっているように思えないのに、売り上げやユーザー数が伸びているのが不思議でした。そこで、中国までその秘密を聞きに行ったんです。
 すると、いろいろなことがわかってきました。1つには、「公会」という仕組みの存在がありました。これは、RPGゲームのギルドに似たチームをつくって、公会Avs.公会Bのように、競争の構造を作る、という考え方でした。公会には配信者だけではなく、配信者を応援する視聴者側も、まるで応援団のように所属していました。視聴者の中には、リーダー格(チャネルマスター)が存在し、そのリーダーが指揮を取って、「敵陣よりも多くのファンを獲得して、この戦いに勝つぞ!」と、躍起になっている。勝ったら自分たちが応援する配信者のステータスも上がります。勝つためにファンが頑張って、チームに仲間を呼び込む。教科書的なコミュニティの構造ですね。

ムーギー:競争意識が、ユーザーの熱狂につながるわけですね。

前田:はい。ユーザー心理を掻き立てるのが非常にうまいな、と。他にも、公会をすごくうまく使って、プロモーション費用を抑えるという手法も本当に秀逸で。ロジックも綺麗なんですが、(1)一ユーザーであるチャネルマスターは当然ながら自分の運営する公会を強くしたい。(2)SNSなどを活用して一生懸命プロモーションして、公会に仲間を集める。(3)公会Aも公会BもYYのプラットフォーム上に乗っているわけなので、こうしたチャネルオーナーの動きによって、YYのユーザーと課金はどんどん増える。よく考えられていますよね。

ムーギー:メンバーたちにとって何がインセンティブになるんですか。

前田:ある種のゲーミフィケーションです。つまり、この戦いに勝ちたいという心理でしょうね。リーダーとなるチャネルマスターの中には、例えば売上の10%など一定比率の報酬をもらっている人もいて、それも大きなインセンティブとなっていると思います。

ムーギー:御社もその仕組みを導入したわけですか。

前田:大枠の仕組みとしては、一定のインスピレーションを受けています。日本でこれをそのまま真似したら社会問題になる。チームで戦わせて課金をあおったら、最後は札束での殴り合いになってしまいます。それは避けたかったので、あくまで良い部分だけを学びの対象としました。

ムーギー:あこぎなビジネスに認定されること間違いなし(笑)。

前田:仰る通り。そこで、チャネルマスターの仕組みだけ、うまく日本風にアレンジして取り入れました。SHOWROOMで言うところの、オーガナイザーですね。
 オーガナイザーは、公式アカウントの発行や管理ができる、SHOWROOMと契約をした法人企業(芸能事務所・スクール・代理店など)です。配信者視点で見ると、これらオーガナイザーと契約を結ぶことで、オーガナイザーから配信に対するアドバイスをもらえたり、ファンをより増やすノウハウが身につきます。くわえて、オーガナイザーのもう一つのポイントが、お金のやり取りの直接性を排除することにあります。

ムーギー:視聴者がギフティングし、そのお金がいったんオーガナイザーに入って、そのうちの何割かが配信者にいく…ということですか。

前田:そうです、ただし、その契約条件はオーガナイザーと配信者との間で取り決めています。オーガナイザーを間に入れて直接性を薄めることで、資金移動や個人間の送金についての法的な問題もクリアできます。

ムーギー:そのあたりは海外の人にはなかなか理解できないところかもしれませんね。