「誰が」の見える化が、サービスのカギ
ムーギー:多くのライブ配信サービスがあり、別の配信サービスで応援したい人を見つけたりすることも可能だと思います。ブルー・オーシャン戦略では、同じ戦略グループと比較して、新たに「創造した」要素に着目します。御社は何を創造したことによって、視聴者に選ばれるサービスになっていると思われますか。
前田:そもそも先駆けだったこともあって、我々が新たに創造した仕掛けや理由はたくさんあるのですが、その中でも重要度の高いものを挙げるとすると、視聴者の姿を可視化したことでしょう。いままでのユーザー参加型の動画サービスは、ユーザーは匿名のコメントでしか参加できませんでした。何を言っているかは気にするけれど、誰が言ったかは気にしなかったわけです。一方、SHOWROOMでは「誰が」を大事にしています。
ムーギー:アバターが表示されたり、ユーザー名が表示されたりすることで、画面上で「誰が」が認識できる。 視聴者は、「影ながらの応援」では十分な満足感を得られず、認識してほしいということなんでしょうか。
前田:仰る通りです。「陰ながらの応援」に徹して満足する人もいますが、アイドルや応援市場には、自分の貢献を認識してもらいたい人も一定数存在します。だから、配信者に「●●さん、タワーありがとうございました!」と言われると、「え、そうだっけ?」ととぼけつつも、実はすごくうれしかったり。
ムーギー:タワーって何ですか?
前田:SHOWROOMの中で使用する約1万円の有料アイテムです。SHOWROOMではこうした利他的な行動、すなわち、それぞれのユーザーの応援の動きを可視化していまして、それが日本文化に照らし合わせても、非常に大切な特徴です。なぜなら、この可視化がないと、自分で応援していることをアピールしなければいけなくなるから。例えば、「タワー投げたよ」って、ツイートするとか……。
ムーギー:うーん、それはちょっと卑しい感じがするし、恥ずかしい。
前田:視聴者の行動を可視化したことで、「あの人、部屋にスッーと入ってきて後ろからタワーを投げて、『頑張れ』と一言言って出て行った。カッコいい」と話題になったりして、今度は視聴者に注目が集まります。視聴者の中にも、人気者が生まれたりする。こうして、演者とファンだけではなく、ファン同士のレイヤーで、横のコミュニティが育っていきます。「あれっ、今日はあの人が来てないね」と。
ムーギー:アバターを通じたコミュニティができているわけだ。
前田:視聴者の姿を明確に可視化して、アイデンティティを表示して、横のユーザーとのつながりをつくってあげることが、コミュニティの活性化に大事なことだと思っています。
共感消費、共感経済という新たなマーケット
ムーギー:御社のビジネスのカギである「共感」や「承認欲求」が消費のキモになってきているのは、社会の豊かさ、成熟も背景にありますよね。
前田:そう思います。いま、利己的な消費がもたらす快楽はどんどん薄まっています。いくら自分の為にお金を使っても、消費がもたらす限界効用が早い段階で逓減します。それよりも、誰かにプレゼントを買ってあげたり、ごちそうしたり、「他の誰かの為に」お金を使う方が楽しい。それを共感消費、共感経済と呼んでいて、アイドルの応援や声優や甲子園もそうですけど、利他的な消費に根付いたマーケットが生まれ、大きな規模に向けて育ちつつあるんです。
ムーギー:効用度の高い、新しい消費の形態ですね。日本は寄付マーケットがない分それで代替できるんでしょう。そのマーケットでビジネスを行っていることが、御社の成長の秘密でもあるんですね。
(後編は6月4日(月)に公開予定です。
前編でキーワードとなった「共感」について掘り下げ、前田氏が応援したくなる人の条件について語ります。)