「完成したものを飾ることがとっても大事なんです」。そういってマルグリット・ハルダルドッティル(Margrét Harðardóttir)校長先生が校舎の中を案内してくれた。
いちばん重視されている授業は「工芸」
日常生活の観察、課題の発見と解決策の模索。NKGと呼ばれる試みは、実践を重視するアイスランド教育のごく一部だ。小学生であっても、授業を一方的に受ける受講者ではなく、みずから学習で取り組む課題を積極的に決める参加者としての姿勢が求められる。その過程において、教師はナビゲーター的役割を果たす。課題に対する解決策も、はたまたその過程も、一つではないという姿勢を貫く。
この考え方は初等教育の根底に流れているが、中でも重視されているのが工芸(Arts and Crafts)の授業だ。私たちが訪れた学校では、80分授業を週に2回、7週間に渡って実施されている。
工芸の授業で利用されている工作室の中を見せてもらう。子供のための椅子が並んでいるほかは、手ノコ、糸ノコ、大人顔負けの道具が揃っていた。裏の作業室には、陶器やガラスを焼く窯までもが所狭しと並んでいる。本格的である。
たとえば、ある4年生の作品アイデアは、赤ちゃん向けの体温計だった。じっとしていない赤ちゃんの熱を普通の体温計で計るのは一苦労のため、おしゃぶりに体温計を仕込んである。この細やかなアイデアは、おそらくその子の家庭に小さなお子さんがいて、お母さんが苦労しているのを見ていたのだろう、と想像される。
5年生にもなると、作品はより立体的になる。試作品(プロトタイプ)が貼付けられているからだ。たとえばある女の子は、普段使っているキックバイクが駐車しにくいことに気づく。なるほど、日本でも公園やマンションの周囲でよく見かける光景だ。自転車と違ってシンプルな構造であるだけにせいぜい壁に立てかけられているキックバイクは、所在なさげ、しかも盗難を防止する術もない。そこで彼女はキックバイクに取り付け、駐車を補助する金具を提案している。本物の金属やゴムは使われていないが、それぞれ異素材であることは見て取れるし、何よりその完成度は、幾度か試作を繰り返したことを伺わせる。
いずれも授業で制作されたものだ。壁に何気なく飾られたこれらの作品たちは、アイスランド語を解さない私たちにとっても直感的に利用法が理解でき、十分にビジュアルで、またその問題点を共有するに充分なものばかりだった。