創造性はすべての人が持っている、という考え方

 この実践を旨とする授業の目的は、初等教育においては課題を発見し、解決する創造性を育むことだ。そして学年が上がるにつれて、よりビジネスを意識した、起業家教育へと比重を移していく。

学校のモットー「賢明、尊敬、工芸、勤勉、健全(Wisdom, Respect, Skills in arts and crafts,industriousness, well-being)」が書き込まれたタイル画

「創造性」と聞くと、ごく一部の大人が持つ先天的な才能――そんな風に私たちは思っていないだろうか。しかし、アイスランドの教育の根底に流れるのは、こうした創造性は全ての人が潜在的に持っている、という考え方だ。だからこそ全ての子供たちが受ける義務教育で、しかも早い時期から訓練させる。

 この授業で大事なことは何か、私を取り囲んだ先生たちに尋ねると、「それはもう、失敗する、ということよ」とみな口々につぶやいた。答えを出してみて、実際に手を動かしてみる。うまくいかない。そうやって少しずつアイデアを自分なりに形にしていく方法を身につけていく。

アイスランドで実践的教育が発展した理由

 しかし、なぜアイスランドでは、これほど熱心に実践的教育が実施されてきたのだろうか?

 アイスランドは人口が32万人しかいない、小さく貧しい国だ。ヨーロッパの環境や資源を前提とした文明や技術の導入は、幾度となく試みたものの、ことごとく失敗している。

 ヨーロッパで鉄が大量に生産されると製鉄を試み、多くの木材を伐採したが、アイスランドの自然では木々の成長が遅く、しばらくすると木材が枯渇した。石炭とともに火力発電所が生まれると、それを模してアイスランドでも火力発電所が生まれたが、こちらも1930年代には世界的な石炭の枯渇で輸入が適わなくなり、水力発電の開発を進めざるを得なくなった。そして1970年代。石油ショックにより60%を越えるインフレが起きると、石油への依存をも減らそうと、地熱発電の実用化が進んだ。今ではアイスランドの住宅の9割に地熱による暖房が整備され、電力供給における再生可能エネルギーの割合は100%だ。