ダイヤモンド社刊
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「重要なことは、人材の質を維持し、向上させ続けることである。有能な人材を惹きつけられなければ、立ち腐れが始まる。その結果生じる衰退を逆転させることはできない。不況時においてさえ、有能な人材は、挑戦や機会がなく、何かを達成したり成果をあげたりすることのできないところにはとどまらない」(『実践する経営者』)

 不況期にあって、あるいは不況期のあと、衰退していく企業が少なくない。しかも、世は、好況を取り戻したというのに、昔日の面影を取り戻せない。これこそ、経営者の責任である。

 景気のひと巡りのあとでは、外見は元に戻ったかに見えて、じつは産業そのものが、異質のものへと変化している。ところが、その変化の先頭に立つべき人材が去ってしまった。

 だから、ドラッカーは言う。「ゼロ成長時こそ、社員一人ひとりの仕事の内容を大きくし、挑戦のしがいのあるものにしなければならない」。

 不況のために、成長はできない。しかし、量的な成長はできなくとも、質的な向上はできるはずである。成長ができないのであれば、事業の内容をよくしなければならない。

 あらゆる組織、あらゆる人間が、常時、挑戦するものを必要とする。「組織には挑戦すべき目標が必要である」。

 ドラッカーは、10年以内に規模を倍にできないのであれば、ヒト、モノ、カネの生産性を倍にする目標を掲げよという。いかなる産業、企業、現場であろうと、生産性の向上を目標とすることは可能であり、それを実現することも可能だという。

 そのとき、徹底して検討すべきことが、「自分たちの強みは何か、その強みはどこに適用すべきか」である。自らの強みを知り、その強みに集中することによってのみ、不況期にあって、ひと足先に飛び立つことが可能となる。

 草創期のIBMに最初の飛躍の機会が訪れたのは、1930年代の恐慌時だった。

「成長の機会は、長期の不況時にあっても扉を叩く。1930年代にも、企業、病院、大学を問わず、事業の内容をよくし続けていた組織には成長の機会が訪れた。機会は、それに値する者の扉だけを叩く」(『実践する経営者』)

週刊ダイヤモンド