アドビシステムズが目指すものは
メガネや計算機?
これまで見てきたように、アドビシステムズは、自社のアプリケーションにすでにAIを投入しています。
しかし、現段階ではあくまでも画像のレタッチ作業を「補助する機能」です。
写真の画像から人物のみを切り出したり、消したり、陰影をつけたり、パース(遠近図法)を変更したりといった、手作業で細かく行わなくてはならなかった分野にAIを投入し、作業時間と精度を劇的に改善しています。
ちなみに、アドビシステムズは、
「AIは人間に取って代わる存在ではなく、人間の能力を補佐したり拡張する存在」
といった旨の観点を打ち出しています。
言うなれば、メガネや計算機のような存在ということですね。
ただし、「アドビ・センセイ(Adobe Sensei)」がさらに進化したらどうでしょう。
手書きのデザインラフをもとにAIが内容を判断して、ディレクターのイメージどおりのものを完成させてしまう。
もしここまで進化したら、「アドビ・センセイ(Adobe Sensei)」は人間を補佐・拡張する存在ではなく、人間に取って代わる存在になるかもしれません。
そうなると、無邪気に「便利」と喜んでばかりいられなくなるのは明白ですが、ここで話を冒頭の独占禁止法に戻しましょう。
現在、画像編集分野では、アドビシステムズはほぼ独占企業であり、結果、「画像編集を行うユーザーの作業」という「非常にユニークなビッグデータ」を独占的に集められる状態にあります。
さて、では、こうして構築したビッグデータは独占禁止法には抵触しないのでしょうか。
正直なところ私にもわかりませんが、いずれにしてもAIにとってビッグデータは「教師データ」という貴重な価値ある資源です。
そして、企業にとっての資源の独占となると、独占禁止法とは無縁ではいられないかもしれない。
私は個人的にそんな感想を抱いています。
さて、このAIは、「ディープラーニング」と呼ばれる自力学習をする「子どものAI」と、人が一から教えて丸暗記させる「大人のAI」に分かれます。
同じAIといえども、両者でどれほどの違いが出るのかは、第1回連載の中で「子どものAI」であるGoogle翻訳と、「大人のAI」である別の翻訳サービスに同じ英文を日本語に翻訳させて、まったく異なる結果になるケースを紹介していますので、そちらを併せてお読みいただけたら幸いです。