ここで雇用政策の重要性に気づかされます。日々の食いぶちに困ると、「目の前が真っ暗になる」「ヤケを起こしたくなる」のは古今東西、変わらない人間の本性でしょう。けい子は少なくとも失業手当を受けている間、「ヤケ」を起こさずに済んだわけです。

 しかし、当座の窮地をつなぐ失業手当が切れた後、けい子は1年前に誕生したばかりの生活保護制度を受けることになるかもしれません。その不安をセリフは反映しています。

 そうなると、ここで雇用を促す政策を強化すれば、本人は職を得られ、社会全体としても福祉の給付を減らせるため、効果を上げられる可能性が高まります。そして、実際に福祉と雇用を組み合わせた事例があります。それに関する論点を映画で見ていきましょう。

雇用と福祉を接続する
イギリスの「ワークフェア」を描写

 雇用と福祉の連携を図った事例として、イギリスが挙げられます。ブレア政権期に「就労(work)」と「福祉(welfare)」を組み合わせる「ワークフェア(workfare)」を強化したのです。

 これは、「支出を引き締めつつ、失業層を就労へと強制する政策」(田中拓道『福祉政治史』)とされます。つまり、失業や貧困で福祉給付を出し続けるのではなく、雇用政策と組み合わせることで、福祉給付の削減と雇用促進を図る「一石二鳥」を狙っているといえます(受給者の就労を義務付けるのではなく、社会参加を重視する「アクティベーション」という政策もありますが、ここでは議論を分かりやすくするため、両者を区分しません)。

 こうした政策の狙いと論点、そして現場で運用する際の留意点を考える上での素材が、イギリスを舞台にした映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』に現れます。

「誰の介助もなしに50メートル以上歩けますか?」「どちらかの腕を上げられますか?」「電話などのボタンを押せますか?」──。こんな質問から映画は始まります。

 質問を受けているのは、主人公のダニエル・ブレイク(デイヴ・ジョーンズ)。40年近い経験を持つ熟練の大工ですが、心臓発作で足場から落ちそうになったため、「病気による支援手当」を受けるため、給付審査のための質問を受けているのです。

 しかし、彼の不具合は心臓であり、手足は関係ありません。ダニエルは問いの無意味さに不満を持ちますが、彼の不服を聞かないまま、官僚的かつ事務的に質問が続きます。ここからダニエルの苦労が始まります。