肉の汗を見逃すな!!!
つまり、焼いているの肉の内部温度が65.5度に達すると、熱が加わってアクチンが収縮することで変性をはじめ、肉汁が放出されます。この肉汁の放出し始めは、肉がじんわりと汗をかいているようにも見え、私は肉の汗と呼んでいますが、この時に裏返し時だと提案しています。勿論、生に近い状態で食べれる鮮度の高い牛肉もあるでしょう。ただ、平均するとここでの返しが一番良いと思うのです。
火の強さというのも焼き台によって違います。肉がじんわり汗をかくのも一定ではありません。従い、肉の汗が出てきたエリアに注力し、トングで肉の端をまず、チラ見します。チラ見した時に、肉がロゼ色→薄茶色に変化していれば絶好の返し時です。迷わず裏返しましょう。
焼肉と焼き方が違いますが、塊肉に温度計をぶっ刺している光景を見たことがないでしょうか?この温度計は、肉の内部温度を測定しています。塊肉は、直接火入れをしている肉の表面温度と、内部温度には温度差が発生します。その見極めの為に温度計で計測しています。肉の低温調理が流行しているのもこの火入れの温度マネジメントによるものです。肉の低温調理は、フレンチなどの技法ですが、ロジカルに火入れして美味しく肉を食べる技法だったのです。65度未満で長時間、肉を低温で調理します。肉汁を逃がさず調理しているので、温度上昇することにより、生肉のグニョグニョっとした食感の状態より、弾力性が増し、歯切れがよくなり、美味しく頂くことができます。また、60度で10分以上調理することで細菌も死滅します。牛肉の場合、細菌は、肉の外側に付着しやすく、内部にはあまりいません。では、何度以上になると菌は死滅するのか?勿論、100度以上になると、数秒で死滅しますが、それでは肉が硬くなり過ぎ、美味しくありません。60度以上で10分以上加熱すると死滅すると言われています。
低温調理法とは、この温度をきっちりと時間をかけてマネジメントする方法で、殺菌もして、肉汁の封じ込めも行う調理方法で、人気になったのです。低温調理法では、60度を目途に時間をかけて調理をしており、殺菌的にも肉汁放出を防ぐ意味でも理にかなった方法だったのです。
『焼肉の達人』でも紹介するオススメ店の西麻布けんしろうのスペシャリテ[けんしろう焼き]も低温調理(+瞬間燻製)の代表格です。ガラスの蓋を開けると同時にふわっと舞う煙から登場するのは、桜チップで燻して香りをつけ、トリュフ塩で頂く、最高のスペシャリテなのです。
65.5度の壁と肉の汗とチラ見。この温度での肉の汗の見極めとチラ見をしっかりし、裏返せれば、肉を美味しく焼けるようになります。
1970年、大阪府生まれ。サラリーマン作家
趣味、焼肉。都内140店舗の焼肉店を訪問するなど独自研究、分析がこうじて、東洋経済オンラインで焼肉記事を連載。たちまち人気連載となった。
焼肉は、メインの肉を焼き仕上げることを客に委ねられるケースが多い、減点法のグルメ。きっちり焼き上げないとせっかくの美味しい肉がもったいないことになってしまうのだが、今まで上手く焼くための指南書が存在しなかった。美味しい焼き方の技術を読者にシェアしたいというのが、本書を書く動機となった。
筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士課程後期中退。早稲田大学大学院(ビジネススクール)国際経営学専攻修了[経営学修士]。現在、都内企業に勤務しながら作家として活動。著書に、『「即判断」する人はなぜ成功するのか?』(サンマーク出版)、『世界一わかりやすいゲーム理論の教科書』(KADOKAWA)などがある。