ウィンドウズに固執していたら敗者のままだった

 サティア・ナデラが2014年にCEOに就任した際、マイクロソフトの存在価値とは何か、自問自答したという。そして、同年の9月に開催されたイベントで、サティア・ナデラは、次のように語っている。

地球上のあらゆる場所にいる人や組織に、もっと多くのことができる力を提供すること。それが、私たちのキーワードだ。重要なのは我が社のテクノロジーではなく、我が社のテクノロジーによって他の人は何ができるかだ。

 ユーザーはウィンドウズというテクノロジープラットフォームのためにマイクロソフト製品を使うのではない、という基本に気づいたのである。

 ノキア端末にウィンドウズOSを搭載して普及させるというスティーブ・バルマーが敷いた路線は、「いかに自分が生き残るか」を考えているに過ぎない。

 しかし、ユーザーがウィンドウズのOS製品を使っていたのは、そのOSの上で動く企業向けのテクノロジーソリューションである「オフィス」というアプリケーションを使うためだったのである。

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 そこで、サティア・ナデラは「オフィス」アプリケーションを他社のスマートフォンOSにも載せることで、ユーザーが使えるようにした。そして、「オフィス」に限らず、すべての製品をクラウドに乗せ、従来のライセンス契約から、サブスクリプションモデルへと移行することとなったのである。

 存在価値について考えることは、歴史のある企業にとっては「魂」を探すことに似ている。先に見たマツダの例は、まさにマツダの「魂」とは何かを探すことに等しかった。

そして、サティア・ナデラは「マイクロソフトの魂を再発見する」ために書いたという自身初の著書『Hit Refresh(ヒット・リフレッシュ)――マイクロソフト再興とテクノロジーの未来』において、次のように語っている。

 マイクロソフトの事業の本質は、顧客のまだ実現できていない、あるいは明確に言語化されていないニーズを満たすイノベーションを起こしていくこと、それだけだ。

 マイクロソフトの「魂」が何かを見つけたサティア・ナデラは、マイクロソフトのリーダーシップチームとともに、マイクロソフトとして新しいミッション・ステートメントを掲げることを決めた。

それが、「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」というものである。

 これを実現するために、マイクロソフトはウィンドウズプラットフォームを閉ざさず、よりオープンなプラットフォームアプローチ、すなわちパートナーシップ中心の戦略を取ることとなった。

『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』で書いているが、スマートフォンで遅れを取ったマイクロソフトは、次のUIとしていずれもマイクロソフトの手になるKinectのジェスチャー入力と、Hololenzの網膜投影によるMRに先行的に投資を進めており、ポストスマートフォン時代の覇者だとも目されている。

 しかし、それはウィンドウズという、かつマイクロソフトに巨額の富をもたらしてくれたプラットフォームに固執していたら実現しなかったことかもしれない。

「自分が生き残るためには何をすべきか」ではなく、「自分は世界に何をもたらすべきなのか」を考えた末に、マイクロソフトはディスラプションの敗者から、次に来るべきディスラプションの勝者へと舵を切ることができたのである。

(この原稿は書籍『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)