このほか、日本プライマリ・ケア連合学会という医師の学会も今月の大会で、「社会的要因により健康を脅かされている個人、集団、地域を認識し、それぞれのニーズに応える活動を支援します」「健康格差を生じる要因を明らかにし効果的なアプローチを見出す研究を推進します」などとした宣言文を採択しました。

 では、健康の社会的決定要因に関しては、どんな政策が論じられているでしょうか。いくつかの書籍を読むと、施策として「貧困・社会的排除への対応」「高齢者の社会参加」「医療保障の整備」「ワーク・ライフ・バランスの確保」「公共交通の整備」「住宅整備」「幼児期からの教育」などが挙がっています(近藤克則『健康格差社会への処方箋』、マイケル・マーモット『健康格差』)。

 このうち、「医療保障の整備」でいうと、日本は国民全員を公的医療保険に加入させる「国民皆保険」を採用している分、この重要性を認識する機会が少ないかもしれません。

 しかし、第8回(「日本の『国民皆保険制度』の素晴らしさが分かる3本の映画」)で取り上げた通り、『一人息子』『東京の宿』など戦前の小津安二郎の映画を見ると、貧しい人が診察や手術を受けられない点、予想しにくい医療費の支払いが貧困を招く点などが描写されています。

 さらに、町医者と患者を巡るドタバタ劇を描いた1952年製作の『本日休診』という映画では、金持ちマダムが医学的処置とは言えないぐらい無意味な美容整形で医師を呼べるのに、船の上に住んでいる貧しい家族は医療費の支払いに四苦八苦しており、医師への謝礼として現金の代わりに卵を手渡す場面があります。つまり、半世紀ほど前の日本では深刻な健康格差が存在しており、いかに国民皆保険が健康格差の減少に貢献したか理解できます。

健康格差を広げる社会的決定要因の
解消には地道な取り組みが必要

 その一方で、健康の社会的決定要因に関して挙げられている政策は多岐に渡っており、国や自治体の担当者から見ると、どこから手をつけるべきか悩むと思います。

 理想論を言えば、国、自治体、民間企業、ボランティア組織が「優先順位が高い分野は何か」「すぐに手をつけられる施策は何か」といった点を議論し、合意形成を積み重ねつつ、それぞれが役割分担と責任を持って課題解決に当たることができたらいいのでしょうが、優先順位や参加主体の顔触れは地域ごとに異なります。

 このため、国主導による全国一律の政策は難しく、それぞれの地域が実情や課題を見据えつつ、健康格差を広げるような社会的決定要因を少しずつ解消していく地道な取り組みが求められそうです。

『カルメン純情す』は当時の世相を鋭くかつコミカルに取り上げており、わずかですが当時の健康問題も描写しています。もし日本で健康格差が一層、クローズアップされた場合、どんなシーンが映画に取り上げられるのでしょうか。