もう一つの要因は
産業構造の変化

 貧しい国では、飢えをしのぐことが最大の目標だから、生産者の多くは農業などに従事する。江戸時代の日本がそうであったように。経済が成長し、農村にトラクターが導入されると、前述したように都会で製造業が発展する。

 貧しい人々は美しくなろうとして洋服を購入するが、人々が豊かになってくると、「素敵な洋服は何着も持っているから、一層美しくなるためには洋服を買うのではなく美容院へ行こう」と考える。こうして需要が製造業からサービス業にシフトし、それに従って労働力も製造業からサービス業にシフトするというわけだ。

 このように、経済が成長すると、産業構造が第1次産業(農業など)中心から第2次産業(製造業など)、第3次産業(サービス業など)中心へと変化していく。これを「ペティ・クラークの法則」と呼ぶ。

 問題は、製造業は生産性が大幅に向上するが、サービス業は生産性があまり向上しないということだ。洋服の製造は、ミシンの導入により飛躍的に生産性が向上するが、美容サービスは労働集約的なので、生産性が向上しにくいのだ。将来のことは分からないが、現段階で人工知能ロボットに美容サービスを頼むのは勇気が必要だ。

 経済の中心が製造業であるときには、生産性が飛躍的に向上するので、国全体の生産力、供給力が急激に伸びる。つまり、需要さえあれば(適切な財政金融政策によって供給力に見合った需要が喚起され続ければ)高度成長が可能だ。しかし、経済の中心がサービス業に移ってくると、供給の急激な伸びは期待できないから、経済成長率は低下せざるを得ない。

 つまり、「中国では8%くらい成長しないと失業者が増えてしまう」というのは、経済の中心が製造業だった時代の話で、サービス業のウエートが上がっている今とは状況が異なる。こうした状況で、無理に8%成長を目指して需要を喚起するとインフレになってしまうので、政府としても成長率の低下を認めている、というわけだ。