最善の形を目指す生き方へ

 「最善の形」を目指そうとする生き方の中に<br />「人間らしさ」が宿る松山 淳(まつやま・じゅん)
企業研修講師/心理カウンセラー 産業能率大学(経営学部/情報マネジメント学部)兼任講師
2002年アースシップ・コンサルティング設立。2003年メルマガ「リーダーへ贈る108通の手紙」が好評を博す。読者数は4000名を越える。これまで、15年にわたりビジネスパーソン等の個別相談を受け、その悩みに答えている。2010年心理学者ユングの性格類型論をベースに開発された国際的性格検査MBTI®の資格取得。2011年東日本大震災を契機に、『夜と霧』の著者として有名な心理学者のV・E・フランクルに傾倒し、「フランクル心理学」への造詣を深める。ユング、フランクル心理学の知見を活動に取り入れる。経営者、中間管理職など、リーダー層を対象にした個別相談、企業研修、講演など幅広く活動。

「深層心理学」に対する「高層心理学」は、ある意味、人間の高い境地を求めていく側面があるため理想論に過ぎないと批判されます。

「人は人生に意味を求めるというが、そんな高尚な人に会ったことないし、自分も生きる意味なんて考え方ことがない」
「世間を見渡せば欲まみれの人間ばかりじゃないか。意味がどうのこうのと言ってないで、楽して儲けて食べて寝て人生ハッピーならそれでいいじゃないか」

 そんな現実世界を眺めた時に実感されるフランクル心理学とのギャップは、また、そのギャップからくる違和感は、あって当然のことです。人間を過大に評価し、過度に理想化しようとしているという批判は、実際、フランクルのもとに多く寄せられました。

 人間が「意味への意志」を持ち、高みを志向することへの批判に対しフランクルは、飛行機が行う「斜め飛行」の例えで反論を試みます。

「斜め飛行」とは、風による機体の流れを計算に入れた飛行方法です。例えば、大阪から東京に飛ぶ時、強い北風が吹くとします。方角は東になるので、北風が吹くと南東に流されます。それでは目的地の東京には辿り着けません。そこで、飛行機は北東に向けて飛ぶのです。そうすることで東に向かう状態を維持できるわけです。地図で見ると、上から風が吹き飛行機は下方に流されますが、上方に向かおうとすることで正しい航路となるのです。

 フランクルは、人間には常にこの「北風」のような人を下方へ押しやる、つまり、人間を堕落させる力が働いているのだとします。

 人は天使にもなれば悪魔にもなります。

 彼はナチスの強制収容所で嫌というほど人間の醜い面を見せられてきました。人間が悪魔になる「最悪の形」を知っているからこそ、上方(人としての高い境地)を目指そうとする意志を持って人生航路を進まなければならないとフランクルは声を大にするのです。

「最善の形」を目指そうとする生き方の中に「人間らしさ」が宿ります。

 フランクルは自著でこう書きます。

「自分の中の、より高い欲求や目標を含んだ、高いレベルで自分自身を見る経験がない限り、人間もまた、その人が本来持っていたであろうレベルより低い所に落ち着いてしまうのである」※1

 フランクルの理想主義は、冷徹な現実主義に支えられているのです。