分子標的薬で、がんから生還

 ガリガリガリ! 隣に駐車してある車をこする音がした。

 埼玉県・川越在住の会社員、栗原新吾さん(55歳)は埼玉医科大学総合医療センターの駐車場でため息をついた。運転には自信があったのに、駐車スペースから車を出そうとしたらこのありさま。

「ああ──。やっぱり自分は動揺しているのか」

 この直前、慢性骨髄性白血病という病名を告げられていた。

 慢性骨髄性白血病は、遺伝子の異常が原因で発症する血液のがんだ。骨髄には、白血球や赤血球といったさまざまな血液細胞のもとになる「造血幹細胞」がある。この造血幹細胞ががんになり、白血球をたくさん作り出してしまうのだ。年間の発症率は人口10万人に1~2人。成人の白血病全体の約20%を占める。

 中性脂肪が高かった栗原さんは、近所のクリニックで高脂血症の治療を受けていた。2011年6月の血液検査で、異常が見つかり総合医療センターの血液内科教授、木崎昌弘医師を紹介された。

木崎医師の元でもう一度検査してみると、慢性骨髄性白血病を発症していることが確認された。正直なところ、栗原さんが持っていた白血病のイメージは、「不治の病」というものだった。