泣き寝入り多い従業員
職場の安全で企業に警鐘

 この判決はどのような意義を持つだろうか。

 一つは「医学的に未解明の部分がある過敏症について、被害と原因を明確に認めた画期的な内容であり、この病気で苦しむ人たちの助けになる」(Aさんの弁護団長の神山美智子弁護士)ことだ。

 仕事で有害化学物質にさらされ、過敏症を発症する従業員は少なくないが、多くは泣き寝入りで終わっている。

 訴訟に訴えても因果関係の立証が難しい場合が多いが、この訴訟では、5人の専門医の診断書を提出し、さらに当時の作業環境の再現実験などにより、Aさんが大量の有機溶剤にさらされていたことと、それによって有機溶剤中毒を経て過敏症に罹患したことを立証した。

 判決の確定を知った「香害」被害者や専門医からは「多くの被害者が力づけられる」「過敏症の労働者にとって福音」などの声が寄せられている。

 判決のもう一つの意義は、花王の主力工場である和歌山工場の作業環境がいかに劣悪であるかを明らかにしたことだ。

 Aさんによれば、検査分析業務を行っていた二つの部屋は、ビルで冷房が実施される期間を除けば室温が30度を超しており、有機溶剤などが揮発しやすい状態だった。換気も全く不十分で、在職中に改善を繰り返し求めたが聞き入れられなかった。

 退職後の2016年、和歌山労働基準監督署に申告したところ、同署は立ち入り検査をし、「必要な排気装置などを設置していない」「定期的な作業環境濃度の測定をしていない」「有機溶剤を入れた容器を密閉するなどの措置をとっていない」という3点で法令違反があると認め、花王に是正を勧告した。その事実を判決は認定している(注3)

 花王は「企業の社会的責任(CSR)活動」(企業が消費者・投資家など社会全体からの要求に対して適切に活動すること)を推進している企業だが、その対象に従業員は含まれていなかったようだ。

 消費者には商品の安全を宣伝しながら、従業員の安全に対する配慮は不十分な企業は少なくない。判決はそうした企業への警鐘にもなっている。

(注3)訴訟では、Aさん側が是正勧告の開示を花王に求めたのに対し、花王側は拒否したが、裁判長が開示を求め、東京高裁まで争った末、開示された。