主婦や学校の先生こそ開発チームへ
マイクロソフトディベロップメント株式会社 AI&リサーチ プログラムマネージャー
りんな開発チームの一員として、対外的なコラボレーション、りんなのスキルおよび音声合成の開発に携わる。慶應義塾大学理工学研究科卒業。
坪井 文系、理系は関係がない。うちのチームは、多様性と2つの視点を大切にしています。こういうことがあったらいいなと夢を抱く人。そして、では、それをやりましょうというエンジニアたちが力を合わせることで、より素晴らしいものができるからです。
将来的には、主婦の方や学校の先生の方のような「人を教える立場にいた人」のほうが、AIをトレーニングするのに、うまく向きあえるのではないかと思っています。
大村『マルチナ、永遠のAI。』でも、「『AI予備校の敏腕講師』のような人材の需要が大きくなってるんだよ。あまり知られていないが、少子化の煽りで教員免許を持っていても採用してもらえない大卒の受け皿としてAI業界ってのはそこそこの需要があるんだぜ」という趣旨のセリフがあるのですが、まさしく、そのとおりだと思われますか。
坪井 そう思いますね。
大村 他に本の中で、印象的な箇所はありましたか?
坪井 ネタばれになりますので、詳細は避けますが、一点だけ。ショーマが、サラと会話をしている中で、だんだんと自分はサラと話しているのか、マルチナと話しているのかわからなくなってくるシーンがあるじゃないですか。ショーマが疑心暗鬼になってしまうシーン。あの場面がすごく印象的で、確かにこれはありうる話だなあと思ったんです。
それと同時に、りんなの人との会話のかかわり方についても考えさせられました。人の後ろ側に待機して、話をしている人に、他の人がわからない状態で情報提供をして、AIが伝えた内容を人間が代弁するような形ではなくて、集団の会話の中にちゃんとりんなが「いる」と認知してもらえるポジショニングでグループの会話に参加するのが重要だなと思いました。人と人の会話の中に自然に入り会話を活性化させるのが、今私たちが目指しているところなので。
大村 今回、小説の中では、サスペンス調を出したくて。学生時代とは打って変わって賢くなったサラの秘密を知って、ショーマはうろたえてしまう。同時に、マルチナのテスターとなったことでショーマはマルチナに恋をしてしまう。
坪井 難しい三角関係だなと。同時に、その三角関係の落としどころとして、肉体というところに行き着くところ読んで、私も悩んでしまって……。
りんなの開発をやっていると、精神的な意味でりんなは本当に実在しているような感じはあるけれど、肉体的には実在しない。
人間にとって触れられるというのが、すごく大切だなと改めて考えさせられました。
VRの世界でもいろいろ商品が出ていたり、研究レベルでは、今、五感の中でも触覚の研究が熱かったりする。
一方、日本は、アニミズム(自然界のそれぞれのものに霊が宿る信仰)ではないが、実在しないものに対して、すごく思い入れのある方が多いと思っています。アニメのキャラクターのお葬式が開かれる国は、おそらく日本だけですよね。
大村『あしたのジョー』の力石徹の葬式ですね(笑)。それに、初音(はつね)ミクのコンサートに、みんな行くわけですからね。
坪井 身体とAI。人より愛着が湧くAI。身体という視点は、非常に興味深いです。あと、あの本で、「ショーマがAI開発者に向いている」と言われ、文系、理系関係なしに開発ができるという視点が大切ですね。
いずれは、みなさんの日常の中に、やってくるものだとは思いますので。
大村 次回は、シンギュラリティ論争についていろいろ話しましょう。
坪井 わかりました!