さりげないAIで、人間の能力を拡張する
AIの世界では、「シンギュラリティ」という言葉が使われることがある。AIの発明が急激な技術の成長を引き起こし、人間文明に計り知れない変化をもたらすかもしれない、という仮説だ。日本語では技術的特異点という。
AIが人間の仕事を奪うのではないかという不安が語られることがあるが、マイクロソフトが目指しているのはそういう世界ではない、と大谷氏は語る。
「先にもお伝えしたように、さりげないAIで、人間の能力を拡張するお手伝いをするというところに主眼を置いてやっているのが、マイクロソフトのAIなんです。あらゆる産業、業態に役に立つAIを目指していますが、私たち1社では何もできないので、これを使ってソリューションやサービスを作っていただきたいんです。そのために、パートナー事業に取り組んでいます。そうしたAIのエコシステムが極めて重要です」
日本でも、プリファードネットワークとの深層学習分野におけるコラボレーションがスタートしている。また、誰にでも、どの部分にでも使ってもらえるのがマイクロソフトのAIだと語る。
「例えば、富士通はZinraiというAIを作っています。これをクラウド上に載せてくださいという組み方もできます。また、『社内にはAIはないので、りんな(マイクロソフトの女子高生AI)のOEMのようなものがほしい』という使い方もできます。そこが得意かというより、どれもできるので、しかもニーズに合わせてカスタマイズして提供できるんです。何かに限定はしないですね。なので、特徴がないと見えてしまうところもあるのですが」
34種類のAPIは従量課金で、一定量までは無料である。そしてもちろん、マイクロソフト製品にもAIは搭載される。後に詳しく書くが、Office製品の裏にはAIがあって、瞬時にウェブサイトやメールを翻訳してくれたり、生産性向上の手助けをしてくれる。
アメリカ本社のシェリー氏は語る。
「Office、Windows、Skype、Cortana、BingといったものにAIを搭載して、もっともっと良くしようと考えています。そうすることで、コンシューマーのためにも、エンタープライズのためにも、中堅中小企業に向けても、どんなテクノロジーを使っていても、日々ユーザーの方々が活用することができます。地球上のみなさんに、もっといろんなことをしてほしいというのがサティアのミッションですので、AIを使ってそれを実現していこうということです」
日本マイクロソフトの榊原CTOはこう語る。
「認識系のサービスはいろいろあります。画像認識、言語理解、音声認識など、それを総称してコグニティブサービスと呼んでいるわけですが、認識系の技術にはいろんなベンチマークがあるんです。それを見ると、オーバーオールにすべてのカテゴリーでトップ争いができているのはマイクロソフトだけですね」
実際、カテゴリーごとにトップ争いに顔を出してくる。
「画像認識だとグーグルとマイクロソフトが競っていますし、顔認証だとフェイスブックがかなり強いですが競っています。音声認識だとIBMとトップ争いをしていますし、言語翻訳だとグーグルとマイクロソフトですね。実はAIエリアのソフトウェアの学術論文は、マイクロソフトがダントツに多いんです」