「さりげなく」マイクロソフトのAIが使われている

 また、AIについての倫理的な取り組みについても、マイクロソフトは強く意識していると語るのは、シェリー氏だ。

「フェアで倫理的で透明性がある。そこにこだわっていますね。私たちがやることをすべて説明することは難しいので、責任を持たないといけないということなんです。ですから、思慮深く作るものを提供していく。AIは、世の中のためになるように使われないといけないんです。世界が悪くなるようなものにしてはいけない」

 実際、マイクロソフトはAIのパートナーシップを共同で作っている。IBM、フェイスブック、バイドゥなど業界150社が参画し、倫理的なガバナンスを策定していこうという取り組みだ。その一方で、先進的な取り組みにも挑んでいる。シェリー氏が続ける。

「AIでもっと広く世の中にインパクトを与えよう、というイニシアチブがあります。例えば、開発途上国で収穫量が3割上がるような農業ができるようにならないか。疫病と蚊の関係はどのようなものか。ガン細胞や腫瘍が発見しやすくなり、治療がしやすくなる方法はないか。学会や大学の研究機関との協力で行われています」

 もっと世の中が良くなるような大きな変革をAIで進められないか、ということだ。ご紹介できたのはほんの一部だが、マイクロソフトのAIは知らなかった、という人も少なくなかったのではないか。榊原CTOはこんなふうに言っていた。

「アピールが下手なんですよ(笑)。クイズ王に勝ったり、チャンピオンと競ったりしないですから。エポックメイキングなものを出すのが下手ですよね」

 だが、この不器用さもまた、マイクロソフトらしさなのかもしれない。そういうところで、器用に立ち回ろうとしないのだ。しかし気づいてみると、「さりげなく」マイクロソフトのAIが使われていたりする。

 未来の社会は、高度なコンピューティングが世の中を支えるようになっているだろう。いろいろなものが自動化され、より便利になっていく。そのときに、AIの果たす役割は言うまでもなく大きい。

 マイクロソフトが目指す「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」ために、欠かすことができないのがAI。

 そしてまた「ポスト・スマホ」時代に欠かせない未来をつくる技術であることも間違いない。その技術を、磨き続けているのである。

(この原稿は書籍『マイクロソフト 再始動する最強企業』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)