「施設のホスピス化」が進む背景に
深刻化するホスピスの財政難

 このNHSからの要請の背景を、施設の責任者のローレイン・ディロンさんが説明してくれた。終末期を自宅かホスピスで迎えたいと思うのが多くの英国人の考えだ。

「ところが、そのホスピスが足らなくなってきたのです。ホスピスはNHSの枠組みに入っていますが、事業者の多くはチャリティ事業ですので、資金が十分とは言えません。そのため、需要に応じたベッド数をなかなか増やしていくことができないようです。一方で、モルヒネなどを使う緩和ケアを必要としている人たちは今後も増えていくでしょう」

「といって、病院にも長くは滞在できません。入院日数は厳しく制限されるようになりました。英国人の多くも病院で最期を迎えようとは思っていません」

 そこで、NHSが採り入れようとしているのが施設での終末期対応である。もちろん英国では、以前から病院よりも自宅や施設、ホスピスで亡くなる人は多い。なかでも、ホスピスの発祥の地として知られているだけにホスピスへの信頼は高く、相当に普及している。

 2012年時点の死亡場所調査では、病院死が49%なのに対して、自宅死が22%、施設死が21%、ホスピス死が6%弱となっている。日本では病院死が76%。日本に比べ病院死が圧倒的に少ない。

 今回訪問したある施設では、最近の死亡場所としてイングランド(英国を構成するウェールズ、北アイルランド、スコットランドを除いたロンドンなどがある地域)での病院死は32%、施設死は50%になっていると聞いた。病院死比率が下がりつつあるのは確かなようだ。

「ロイヤル・トリニティ・ホスピス」
「ロイヤル・トリニティ・ホスピス」の外観

 ホスピスの財政事情については、確かに余裕があるとは言えないようだ。「収入の3分の1しかNHSからは受け取っていない」と、今回訪問したロンドンのホスピス「ロイヤル・トリニティー・ホスピス」では話していた。

 同ホスピスは、125年前に開設され、王室からの支援を得ている。チャールズ皇太子夫人のカミラさんが訪問してきた写真が10枚ほど玄関脇に飾られていた。伝統と格式を誇る雰囲気だが、それでも「イベントや寄付に頼り、チャリティーの売り上げを増やす努力をしています」と力説していた。ロンドン市内などに「トリニティー」の看板を掲げたチャリティショップを29店も展開している。