これは、私が警察官時代に身につけた職務質問(職質)の技術をもとにした手法です。
路上や駅前などで行われる職質は、犯罪を取り締まる有力なツールですが、あくまで任意で行われます。強制力もなく、市民の協力もあまり期待できない中で、スムーズに職質することは容易でありません。
この難しさは、クレーマーを相手にするときと共通しています。
具体的には、次のような「お願い」「気合い」「追及」の3ステップを踏みます。
ステップ(1)お願いモード
話しやすい雰囲気をつくり、相手の話に傾聴する段階です。初期対応の基本に沿って、「このたびは、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。さて……」などと丁寧な言い方で事実関係の概要を把握するように努めます。
職質でも、話の6割程度は日常会話であり、ベテランの制服警官も敏腕刑事も、最初から射るような視線を相手に向けることはありません。「お急ぎのところを申し訳ありません」「少しだけ協力していただけませんか?」などと、笑顔を交えて相手に協力を仰ぎます。そして、とくに不審点がなければ、そこで切り上げます。
ステップ(2)気合いモード
「さようでございますか」などのあいづちで調子を合わせつつ、相手の言動をじっくり観察する段階です。脅し文句や話の脈絡にも注意を払います。
曖昧なところや疑問点についてストレートに質問するのは、この段階に入ってからです。ただし、詰問するようなキツい口調にならないように注意します。
職質でも同様に、「そうなんですか」「なるほど」「……ということなんですね」とあいづちを打ちながら、もっぱら聞き役に回ります。そうすれば、こちらが少々粘り強く絡んでいっても、相手はそれほど不快感を覚えません。一方、警察官は穏やかな目の奥から、相手の一挙手一投足を注視しています。
ステップ(3)追及モード
相手の本音を引き出せたら、「ご検討いただけませんか?」などと、こちらから解決策を提案する段階に入ります。または、できることと、できないことを伝えたうえで相手の希望を聞いたり、「できないことは、できない」とはっきり告げます。
職質では、疑問点を指摘して、不審なところがあれば所持品を提示させたり、氏名や住所を確認したりします。場合によっては、交番に同行を求めることもあります。
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