100業種・5000件以上のクレームを解決し、NHK「ニュースウオッチ9」、日本テレビ系「news every.」などでも引っ張りだこの株式会社エンゴシステム代表取締役の援川聡氏。近年増え続けるモンスタークレーマーの「終わりなき要求」を断ち切る技術を余すところなく公開した新刊『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』に需要が殺到し、発売即、重版が決まった。
本記事では、終わりの見えないクレーム対応の、「心が折れない方法」を、具体例とともに特別掲載する。(構成:今野良介)

心のシャッターを下ろしていい

私は交番勤務時代、交通違反の取り締まりが最も苦手でした。違反した事実を認めようとしない手合いから、ボロクソに言われるからです。

「なんで、ワシだけ取り締まられなアカンのや!」

こうした場面で反論したり、説得しようとすると、揚げ足をとられて一気に逆上されます。かといって、納得してもらえるまで丁寧に対応していたら日が暮れます。

相手のペースに巻き込まれないよう、「ご不満はあると思いますが、違反は違反です」と、淡々と伝えるだけです。その後は、何を言われても、耳に栓をするようにして、心のシャッターを下ろすのです。

クレーマーから電話がかかってきて、「ふざけんな!」と、鼓膜が破れそうな声で怒鳴られたら、受話器を耳から離してください。身がすくむほど恐ろしい怒声も、ノイズにしか感じなくなります。常軌を逸したクレーマーは、「壊れたスピーカー」だと思えばいいのです。まともに取り合ってもしかたがありません。

「悪質クレーマーを宇宙人だと思え」と.部下を指導しているベテランオペレーターもいました。あえて、相手を「上から目線」で見ることで、心を落ち着かせることを優先させているのです。

そもそも、担当者とクレーマーの双方が100%納得することなどありえません。とくに、この段階に入ったモンスタークレーマーが抱える不安や不満に対して、完璧な対応をしようとするのは無理な話なのです。

また、悪質なクレームは、自分ではなく、組織に向けられたものであることを忘れないでください。つまり、仮にあなた自身が責められていたとしても、責任をとるのはあなたではないのです。そう考えるだけでも、少し気持ちはラクになります。

そして、この段階に入ってくると、「いつまで続くんだよ……」「もう、やってられない」という、うんざりした気分になってくるでしょう。

しかし、どんなに厄介なクレームでも、いつかは必ず収束します。

半年間ひっきりなしに電話やメールで苦情を寄せていたクレーマーが、ある日、パッタリ連絡してこなくなることがよくありますが、クレーマーは納得したわけでなく、諦めただけだったりします。ごくまれに、調停や裁判にもつれこむこともありますが、必ず「終わり」はあります。

クレーマーの「弱み」につけ込め

クレーム対応で焦りが禁物であることは、『クレーム対応「完全撃退」マニュアル』で詳しく書いているのですが、実は、時間に追われているのはクレーマーのほうだともいえます。

金品を狙った詐欺まがいの悪質クレーマーは、怒鳴り声で相手をパニックに陥れて、早期に金品をかすめ取るのが常套手段です。こうした確信犯的なクレーマーは、警察に通報されることを恐れ、できるだけ短期間に決着したいと考えます。対応する側が、必ずしも解決を急がなくてもいいと覚悟を決めれば、立場は逆転します。

一般社員・職員の場合、担当者は限られた時間のなかで日常業務をこなしながら、クレーム対応に追われています。クレームの長期化で疲弊するのは当然です。

また、お客様相談室の専任スタッフやコールセンターのオペレーターでも、特定のクレーマーにかかりっきりになるわけにはいきません。やはり、ひとりで対応していると、時間的な制限があるなかで神経をすり減らすことになります。

しかし、組織として対応すれば、多くのメンバーが協力し合うことで、ゆったり構えることができるはずです。ひとりの「持ち時間」には限りがあるけれど、組織全体でとらえれば、時間はたっぷりあると考えるのです。

悪質クレーマーは「壊れたスピーカー」と思っていい。“完全撃退”する組織対策の方法論モンスタークレーマーに「1人」で対応してはいけない

「エスカレーション」で持久戦に持ち込む

組織的なクレーム対応で一般的なのが「エスカレーション」です。