ハードとソフトの両輪が揃わなければ、組織は変われない

ブルー・オーシャン・シフトを成功させる、性善説と性悪説2つのアプローチムーギー・キム
ブルー・オーシャン・シフト研究所日本支部 代表
慶応義塾大学総合政策学部卒業。INSEADにてMBA(経営学修士)取得。外資系コンサルティングファーム、投資銀行、米系資産運用会社、香港でのプライベートエクイティファンド投資、日本でのバイアウトファンド勤務を経て、シンガポールにてINSEAD 起業家支援企業に参画。
INSEAD時代に師事したチャン・キム氏に任じられ、世界中に拠点を有するブルー・オーシャン・シフト研究所の日本支部の代表として、新刊『ブルー・オーシャン・シフト』では、付録の日本ケースの執筆を担当している。著書に『一流の育て方』(ダイヤモンド社)『最強の働き方』(東洋経済新報社)、『最強の健康法』(SBクリエイティブ)などがある。』

ムーギー:高宮さんは、アイデアを実行できる企業と、結局、慣性の法則に負けて実行できない企業を、いろいろ見てこられたと思います。
 前編で出たように、感情的な面で、皆を巻き込んでおくことが、戦略を実行する上で欠かせない要素の一つだと思いますが、他には何が必要だと思いますか。

高宮:そもそも実行できるか否かを考える前に、新しいことを始める時には、2つやり方があると思っています。

 既存の組織全体で新しい方向にシフトするのか。それとも、完全に分離した別部隊を設けて、その部隊が新しいことを始めるか。2つのうち、どちらが実行しやすいかで言えば、組織を分けた方がやりやすい。

ムーギー:それはそうですね。

高宮:と、いう点では、セオリーとしては、まず分けることだと思います。
 先ほどの質問を「いやいや、分けないでやるにはどうしたらいいんですか」「本業そのものが傾いている時に、全社でブルー・オーシャンを探すにはどうしたらいいんですか」みたいな状況において、何が必要かという質問に置き換えて考えますね。

ムーギー:はい。

高宮:企業全体で新しいことに取り組むということは、凝り固まった古いやり方が常識になっているところで、どうブルー・オーシャンを開拓していくかといった話になります。なので、必ずマインドやカルチャーといったソフト面にメスを入れなければいけないことになります。
 そのマインドを形成するために、『ブルー・オーシャン・シフト』で出てくるようなステップを儀式的に踏ませて、後戻りしないようにする、空中分解しないようにすることが、一つ重要なことだと思うんです。

ムーギー:やり方が二つとおっしゃりましたが、他に必要なことは何でしょう。

高宮:ハードを整えて、誘導するのも一つの手ですよね。例えば、インセンティブの仕組み、業績評価の仕組みを、新しいことを実行する人を評価するように振り切る。
 日本企業でよくあるのは、「ベンチャーと何かやれ」「オープン・イノベーションで何かやれ」と言って、まずオープン・イノベーション専門の部署をつくる。その人たちが頑張るんだけれど、現業の部隊とつなぐと、現業の部隊の人たちは、新規の部署の方に関心が向かない。
 なぜなら、現業の人たちは、ひと声何百億みたいなビジネスをしているのに、ベンチャーと連携しても自分たちの事業部に付く売上は、頑張っても年1億のようなことは、ざらにある。規模感が全然違ったりするんですよ。当然、現業の方を優先するインセンティブが働きますよね。

ムーギー:そうですよね。同じ労力をかけるなら、稼げる方に注力しちゃいますよね。

高宮:おそらく、本気でやりたいのであれば、業績評価の仕組みは、「ベンチャーとの連携度合い」「新規事業のノルマ」と、細かく設定して、評価に連動させないといけないんですよ。かけ声だけでは動かないですよね。

ムーギー:人はそんなに変われないと。ある程度、強制的な仕組みも必要ってことですね。

高宮:性善説に立って、モチベーションを高めて、カルチャーをつくれば動くという観点と、性悪説的な立場から、人は経済人で、利益でしか動かないみたいという観点、両方をセットにして動かしていかないと、ダメなんじゃないかなと思います。

ムーギー:はい。

高宮:実行できない企業は、両方をセットにしてやり切ってないところが多いかなと思います。