小説のテーマを決めるのは、自分ではなく、「創作の神様」
本田:祖父から主人公の敬(ケイ)に届く2番目の手紙は、「決断」です。ばななさんも「小説家になろう」とか、「この男性と結婚しよう」と決断することがあったと思うのですが、ばななさんは、物事を決めるとき、どんな基準で決断をされているのですか?
吉本:小説のテーマを決めるときは、直感や偶然を大切にしています。自分で決めているというより、いつの間にか、創作の神様に決断させられている、みたいな感じですね。夢で見たり、偶然が重なったりして、テーマがにじり寄ってくるんです、ジリッ、ジリッと(笑)。
本田:ご自身で目標設定するタイプではないですよね、ばななさんは。
吉本:それをしちゃうとダメですね。取りに行くとダメなタイプです。たとえば、韓流ドラマを見ながら、「次は私も、恋愛小説を書こう」と思っているのに、不思議と「幼児虐待」というテーマがにじり寄ってきたりする。そうなるともう逃げられないので、あらがわず、偶然に任せ、直感に導かれながら、書くしかない。
主人公にしても、向こうが、つまり、創作の神様が勝手に決めてくる感じです。「ボクシングをしている主人公を書け」という指令を受けた気がして、半年間、ボクシングジムに通ったこともあります。
リアリティーを得るまではやらなくちゃ、と思って通いましたけど、本当に苦しくて、つらくて、練習で地獄を見て、「もう、こういう指令はこないでほしいな」と思ったこともあります(笑)。
本田:結婚も、ばななさんの自由意志で決めたのではなくて、「決断させられた」感じなのですか?
吉本:「あー、出会ってしまった」と(笑)。「神様の前でお見合いさせられている」ような感覚で、「あー、決まっちゃった」みたいな(笑)。なので、恋愛期間もないまま、「もう、これはしょうがないよね」と言って、結婚を決めたんです。たとえば、引っ越しをしようと思って物件を探しているときに、「あ、ここに決めた」と直感的に思うことって、ないですか?それと同じですね(笑)。
(第2回に続く)