B to B企業こそマーケティング人材が育ちやすい

山口 特にB to Bの営業職だと、消費者向けプロダクトと違ってビジネスサイクルが短いですよね。営業がニーズに気づいたら、翌週にはサービスをこう変えよう、セミナーもこうして……とマーケティングに関わるPDCAが早く回るから、マーケティングにも通じている人材が育ちやすいですよね。

営業マンがマーケティングを知れば掛け算で評価が上がる理由B to B企業でPDCAを何度も体感すると、広告代理店への営業政策上の要請の結果だったり現実の部分もよくわかる、と田端さん

田端 特に、リクルートや、(組織・人事コンサルティングの)リンクアンドモチベーションといったサービス会社のプロダクトであれば、自動車みたいに開発に何年もかかるものと違って、2週間とか、ともすると1日でできちゃう。おっしゃるとおり、顧客からのフィードバックも早いし、PDCAを何度も体感できるから、人材育成にはいいですよね。たとえば、リクルートでフリーマガジンの『R25』を創刊したときのことですが、フリーペーパーの宣伝をテレビCMでなぜやるかというのも、最初から狙っていたわけじゃなく、広告代理店への営業政策上の要請の結果としてやることになった、という話だったりするじゃないですか。そういう現実的な本音の部分もよくわかる。

山口 たしかに、消費者に対する広告というより、チャネル対策として実施する施策であるとか、マーケティング施策と一口に言っても現実的な対応が色々ありますよね。

田端 あと、これはB to Bに限った話ではないですけど、営業部隊は歩兵として竹槍をもたされて地上戦をやっていたところ、PRやマーケティングがイケてる感じに、うまく空中戦を仕掛けて制空権を取ってれると物凄く楽ができるんだ、ということが肌身にしみて理解できます。最近では、セールスフォースドットコムのB to Bのマーケティングはすごいと思っていて。彼らの見込み顧客を集めるカンファレンスの作り方というのは――アジェンダ作りや人の集め方、そこで流すビデオの作り方、その後のパーティーの設計、開催後の追いかけ方までを含めて、すごく完成されているから、離れ小島を守備する日本軍が、空爆と艦砲射撃でヘナヘナになったところに準備万端で上陸しにいくアメリカ海兵隊みたいな戦い方なんですよね。

山口 古くは15年くらい前に大企業で導入が流行したSAPだとか、海外のイケてるBtoB会社は営業する前に勝負を決するのがうまいですよね。

田端 面白いのは、そういう空中戦をやりつつも、使えるものは全部使えっていう感じで、人脈のありそうな黒光りにゴルフ焼けした日本人のおじさんをベースサラリーで2000万~3000万円で雇って、昔の知り合いに全部営業に行かせたりもする。効率的に網をかける営業と、ピンポイントな営業と、掛け算で攻めてくる徹底した合理性がすごい

山口 成果が出るものに追加投資すればいいし、成果が出ないものは変えればいい、とはっきりしてますよね。

スキルの高さではなくスキルの需給で給料は決まる

田端 そういう一連の施策が全体最適で見通せるようになるには、マーケターであっても、小さい事業でいいから責任者として収益に責任をもつ立場に、早く到達したほうがいいですよね。特に優秀な女性にありがちですけど――これバカにしてるわけじゃないんですよ。でも結婚して子どもを産んでも復職できるように専門性を身に付けたい、という理由でPRやマーケティングを選ぶ人が多いじゃないですか。でも、どんなに専門性があっても、事業全体の収益に責任をもったことがないなら、しょせん組織の歯車にすぎない。たとえクリエイティブ出身だろうと、自分は収益に責任をもたないとか、少なくともそれは自分の仕事には関係ないいう態度を、一流の人は取らないと思う。

営業マンがマーケティングを知れば掛け算で評価が上がる理由給料はスキルの需給で決まる、と山口さん

山口 私は本の中で、マーケターの職能をステージ1~6で説明しました。このうちステージ3(あるカテゴリー施策のスペシャリスト)までで行き詰っていて、スキルは上がっているのに給料が上がらないとフラストレーションをためている若い人ってすごく多い印象があります。でも、そういう人たちにいつも私が言うのは「給料は、スキルのレベルにしたがって上がるわけじゃなく、そのスキルの需要と供給で決まるんだ」ということです。同じ成果を出せる人が市場に100人いれば買い手が有利で給料は上がらないし、10人もいないなら売り手が有利で上がっていくというだけですよね。

田端 自分が提供している本質的な価値を、逆の立場でマーケティング部門長なり事業部長なり、社長になったつもりで見極めればわかりますよね。その需給のメカニズムがわかっていないなら、ただの愚痴でしかない。(後編につづく)