高く評価されるスキルの身に付け方や、40代以上で幸せになるためのステップアップとは? 2ヵ月で10万部を突破したベストセラー『転職の思考法』著者の北野唯我さんが、10/18に最新刊『マーケティングの仕事と年収のリアル』を上梓した山口義宏さん(ブランド・マーケティングの戦略コンサルティング会社インサイトフォース代表)から、マーケティングの仕事の実態やキャリアアップのポイントを引き出します。(構成:大西洋平、撮影:疋田千里)

スキル以上に「ラベル」がモノを言う

北野唯我さん(以下、北野) いつの時代もマーケターに憧れる学生は非常に多くて、まさに人気職種です。山口さんの新刊『マーケティングの仕事と年収のリアル』では、マーケターのキャリアを6段階で説明されていますが、特にボトルネックになりやすいのはどの段階ですか?

マーケティング職の6つの成長ステージ
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山口義宏さん(以下、山口) 「ステージ3」と名付けているスペシャリストの段階、その入り口あたりが最初のカベです。スペシャリストの端くれになるまでには2~3年を要するというのが通常で、早い人なら20代半ば~後半でその域まで達するでしょう。そして、ステージ3にきて1~2年ほど経った中堅層で、一定の人たちは停滞してしまう。というのも、さらに上をめざそうとして、80~90点の段階にある専門性をさらに究めて100点をめざしがちなんですが、労力を求められる割に成果や年収につながりにくいためです。だから、多くの人は90点を100点にすることに努力するよりも、その上のステージの目線を理解し、上から自分に何が求められているのかを見極めたほうがいい。もしくは、同じステージでも隣接する他の専門領域のスキルを磨いて、専門性の掛け算で勝負できるようになったほうが成果も出やすいし、マーケットバリューも高まります。

北野唯我(きたのゆいが)
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ハイクラス層を対象にした人材ポータルサイトを運営するワンキャリアに参画、サイトの編集長としてコラム執筆や対談、企業現場の取材を行う。テレビ番組のほか、日本経済新聞、プレジデントなどのビジネス誌で「職業人生の設計」の専門家としてコメントを寄せる。著書『転職の思考法』(ダイヤモンド社)は発売10万部と大ヒット中。

北野 すると、広告代理店であればウェブ広告だけやってきたという人が今度はマス広告のスキルを身につけるといったことになるのでしょうが、事業会社の場合は、広告宣伝部からたとえば企画部に移るといった選択がベターでしょうか。

山口 そのほうが、視野が広がって人材の価値は上がりることは多いですよね。外注支援会社から事業会社に転職する場合であれば、特定業務を内製化するための「コモディティ人材」か、事業を伸ばすための投資となる「戦略人材」で値付けがまったく異なる点も念頭に置いたほうがいいでしょう。たとえば前者でホームページの更新を任せるだけの人材なら、外注よりも安く抑えることが目的だから、高い年収は期待できません。しかし後者で、「当社の弱点となっているeコマースを戦略投資によって伸ばすべきだ」という話なら、高条件で人材を獲得します。だから、戦略人材とみなされるスキルと売りこみ方をすべきですよね。たとえば調査会社のリサーチャーは一般的にけっして高待遇ではありませんが、ビッグデータのスペシャリストとなると……。

北野 たしかに、「ビッグデータ」と付いた途端、年収は高くなる。

山口 リサーチャーとビッグデータのスペシャリストというのは、乱暴に言えばスキルセットは大きくは違いません。だから、もしも今の自分が20代のリサーチャーだったとしたら、ビッグデータのスペシャリストに見えるような経験を積むためには何をすべきかを考えて、自分を高く売るようにします。スキル磨き以上に、自分にどの「ラベル」を貼れるかが重要、というのも『転職の思考法』の中で主張されていたことですよね。

北野 ええ、どんなラベルであれ、まずは自覚的に言葉にすることが重要だと思います。

「アラサ―」が転職のひとつの分岐点になる

山口 スペシャリストとしてステージ3の中盤に差し掛かった段階で、自分はもうひとつ上のステージ4のブランドマネージャー(一ブランドの統括者)になりたいのか、同じステージ3のままでスペシャリストを究めるのか、あるいは隣接領域のスキルも磨いて掛け算のスペシャリストとしていくのか、といったことについて、冷静に考えてみることが大事だと思います。年齢で言えば、アラサーの前後です。
 あと、アラサ―でよく考えるべきは、事業会社に向いているのか、外注支援会社に向いているのかという点です。もちろん器用に両方やれる人もいらっしゃいますが、特に外注支援会社にいて、結婚して子どもができてワークライフバランスを重視したい、なおかつ評価も今以上に上がりづらいだろうと思う人は、アラサ―のタイミングで事業会社への転職を真剣に検討してみるべきだと思います。

北野 ステージ3のスペシャリストの次に当たる、ステージ4のブランドマネージャーについては、企業によって役割や権限がかなり違いますよね。マーケティングに強いと定評のあるP&Gあたりはわかりやすく、すべてを商品も数字もすべてをにぎっていますが、一方で名ばかりブランドマネージャーのケースも見られますよね。実際は開発部門が強くてマーケターはその販促だけ請け負うというような。後者の企業では、いくらマーケターがブランド施策を提案しても、「要はROI(投資利益率)じゃん!」と突っぱねられて話が終了してしまう。こういった齟齬が出ないように、ブランドマネージャーのクラスで転職先を選ぶときは何に気を付けるべきですか。

山口義宏(やまぐち・よしひろ)
インサイトフォース代表取締役
東京都生まれ。東証一部上場メーカー子会社で戦略コンサルティング事業の事業部長、東証一部上場コンサルティング会社でブランド・コンサルティングのデリバリー統括などを経て、2010年にブランド・マーケティング領域支援に特化した戦略コンサルティングファームのインサイトフォース設立。大手企業を中心にこれまで100社以上の戦略コンサルティングに従事している。著書に『デジタル時代の基礎知識「ブランディング」「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール』(翔泳社)など。

山口 「べき論」で言えば、ブランドマネージャーというポジションがあって権限もきちんと与えられている会社を選ぶべきです。でも、そうすると外資系に選択肢がほぼ絞られてしまう。日系企業の多くのようにブランドマネージャーが確立されていない会社であっても、4P(プロダクト、価格、流通、プロモーション)の各部門を巻き込みながら合意形成を図って最後にトップの承認を得るというアプローチは有効ですし、実際にそういうケースは数多くあります。こういう場合は、社内政治的な動き方が求められますね。

北野 ステージ4の「ブランドマネージャー」と、ステージ5の「CMO」というのは、どういう違いがあるのでしょうか。

山口 ブランドマネージャーはある特定の商品ブランドの権限をもっている人で、CMOというのは全ての商品ブランドを統括する人です。その会社にひとつしかブランドがなければ、同じ役割です。あとは、事業会社のCMOだと執行役員~役員のポジションになるので、出世がかかるというのが違いですかね。日本の会社だと、誰か一人に責任を負わせる仕組みでなく、CMOが担うべき機能を分解し、経営企画がブランド別の投資ROIを可視化し、マーケティング部が各ブランドの売上増ポテンシャルや課題を可視化し、最後は経営陣共同で、どの商品ブランドに投資を傾斜配分するかの判断を担ってる場合も多いです。
 ただ、事業部長同士が議論しない互助会的な組織文化だと、互いの権益を守るために、相手の事業に口を出さず、企業全体からすると投資の傾斜配分をせず、薄く広く分散しがちという問題が起こりがちです。

北野 なるほど。伺っていると、CMOというのは、経営企画の役割も担うのが本質的なあるべき姿なんでしょうね。

マーケターにセンスはどの程度必要か?

北野 ところでマーケターというと、センスも重要な気がしますが、まったくなくても通用しますか?

山口 完全にゼロだと厳しいでしょうね。ただ、センスというのは、理解のセンスと表現・創造のセンスに大別できると思うんです。両者はつながっていますけど。私個人に関して言えば、理解のセンスは高いという自負がありますが、表現のセンスには自信がありません。

北野 それは少し勇気づけられます。マーケターには、理解のセンスが最低限求められるということですね。

山口 そうですね。マーケティングは正解がない世界なので、同じものを見てもとらえ方ひとつで理解度が問われます。その理解のセンスにも、見たところ2つのパターンがあります。特定のターゲットの理解やクリエイティブのテイストに個人的な関心と共感があってめちゃくちゃ敏感なセンサーがある「クリエイター型」と、学習によって自分の好みとは相容れないターゲットやクリエイティブを理解していく「サイエンス型」です。前者は深い理解が強みですが、加齢によって自分が共感を寄せる顧客層やセンスが古びてしまうリスクに注意すべきです。後者はある程度学習によって時代変化にアジャストしていけるのが強みですが、理解が上っ面に留まったまま、わかった気になってしまいがちなリスクがあります。

北野 一方で、表現力はなくても大丈夫だということでしょうか?

表現はディレクションができれば十分、という山口さん

山口 表現は、クリエイターが開発基準を理解するための要件を押さえるディレクションができれば十分だと思います。たとえば、「美味しいお茶だ」ということをパッケージで伝えるためには、有名な製茶会社の茶葉を用いていることが伝われば良いのか、水の美味しさと違いが伝わればよいのかなど、伝わるべき価値の優先順位付けがあります。また、表現法は、ターゲット理解を踏まえて、親しみやすいほうがいいのか、スノッブなほうがいいのか、といった要件を抽出し、伝え、実際に出てきた案を評価する能力です。

北野 おそらくクリエイター型の人は自分の感覚で自然と理解できると思いますが、サイエンス型の場合は若い頃からどんなふうに自分の感性をみがいていけばいいと思いますか? 山口さんが自分自身を振り返ってみて、若い頃にこんなことを経験しておくといいというアドバイスはありますか?

山口 求められるのは多様な経験であり、異質なものにどれだけ触れてきて、自分の中で相対化してきたかということが重要だと思います。社内の合意を形成するうえで、説明力の高いことが成果を出せるマーケターの条件だからです。施策のプランを発表した途端にどよめきと拍手が起こる超天才は別として、マーケティング施策のなかには、見ただけで斬新で絶賛されるようなものではないけど、着実に成果を出すような地味なものも沢山あります。また、斬新で前例のないプランであるほど、意思決定する経営陣は不安なので、そこで「なぜこのプランが良いのか?」を論理的に説明できることは重要です。