さらに、医薬分業(医療機関ではなく、薬局が調剤すること)が実施されていない三原医院の様子、結核になった秋子が入院する療養所の実情、定時制高校生の就職差別の実態など、時代の雰囲気を表す興味深いシーンが見受けられるのですが、これらの様子はDVDでご覧いただくとして、ここで制度的な背景を確認します。

 元々、労働保健の政策が本格的に始まったのは、製造業や炭鉱の現場でした。1911年に制定された工場法という法律で、労働時間の制限や女性労働者の保護、傷害時の補償などを定めました。その意味では、第9回(「公的医療保険の原点が労働者保護であることが分かる映画『あゝ野麦峠』」)で取り上げた健康保険法の歴史と同様、労働者保護の歴史を持っていたことになります。

 その後、太平洋戦争のさなか、工場労働者の健診がスタートしました。これは総力戦を勝ち抜くため、国民の健康を維持することを通じて、生産力の増強を目指していました。

 さらに、敗戦を挟んで1947年に労働基準法が制定され、発足間もない労働省(厚生省から分離、現在の厚生労働省)が所管することになりました。しかし、高度経済成長が始まると、寅さんシリーズ第14作の博が負ったような労働災害が顕在化するようになったため、労働基準法から独立させる形で、1972年に労働安全衛生法が制定されました。

『いつでも夢を』を見る限り、法律や制度に関する特段のセリフやシーンは見当たりませんが、ひかるが養父とともに出向いた診察は、旧法の労働基準法に基づく健診だった可能性があります。

産業構造や雇用環境の変化で
労働衛生の課題が変容

 最近、労働安全衛生法が話題になったのは、「ストレスチェック」の導入です。これは従業員の心身状況を把握するのが目的で、従業員50人以上の職場を対象に、2015年12月から義務づけられました。言い換えると、メンタルヘルスが労働衛生の大きな課題になってきているのです。

 背景としては、産業構造や雇用環境の変化が挙げられます。製造工程の自動化や工場の海外移転、消費経済の拡大などを受けて、サービス業の割合が増加した一方、工場での働き方も変わったことで、『風と樹と空と』『いつでも夢を』の頃に比べると、労働衛生の課題も変容したのです。