政治的な壁も乗り越えて
妥結したことは素晴らしい

 日本は自動車を作るのが得意で、カナダは農産物を作るのが得意だとする。日本は自動車を大量に作ってカナダに輸出し、得た外貨で農産物を輸入すればいいというのが、経済学の教える国際分業のメリットだ。

 しかし政治の世界ではそうはいかない。日本の農家と、カナダの自動車会社が強く反対するからだ。それを乗り越えて交渉が妥結したのは、素晴らしいことだといえる。

 今回、筆者が注目しているのは、日本の農業の高齢化だ。高度成長期には、“金の卵”たちを都会に送り出し、残った親たちが農業に従事していた。だが、親たちが高齢化したにもかかわらず、かつての金の卵たちは戻ってこず、農業の高齢化は着実に進んでいった。

 今回の交渉の妥結は、こうした状況が幸いしたと筆者は考えている。というのも、TPPの農産物自由化は明日からではなく、「10年かけて、ゆっくりと農産物の輸入を自由化していく」という取り決めが多いからだ。

 若い農家であれば、そうした取り決めに対しても「絶対反対」を唱えるかもしれない。だが、10年後には引退しているであろう高齢の農家は「10年後は農家を続けていないだろうから、特に反対する必要はなさそうだ」と考えるだろう。

 つまり、日本の農家の多くが10年後には引退していると思われる高齢だったことが、交渉成立の重要な要因であったと思われるのだ。

 逆に、農家の高齢化は、TPPを促進する要因として働いた可能性がある。10年後には農業の担い手が不足して国内の農産物供給が減り、これまでよりはるかに大量の農産物を海外から輸入しなくてはならない時代がくるはず。

 そうなると、関税を撤廃して海外の農産物を安く買いたいという消費者の声が上がる可能性が高く、促進する方向へ後押ししたと見ることもできるというわけだ。