東京五輪後なら、工事需要が一服して工事費も下がるはず。そう考えて、大規模修繕を先送りするマンション管理組合が増えているが、実際には五輪後に建設費が下がる可能性はほぼなく、むしろさらに上がっていく可能性の方が高い。(さくら事務所会長 長嶋修)

東京五輪後の建設費は
下がるどころか上昇する!?

五輪後、建築費はさらに上がる可能性の方が高い大規模修繕を2020年以降に延期するマンション組合も多くみられるが、五輪後、建築費はさらに上がる可能性が高い Photo:PIXTA

「2020年以降、不動産価格や建築費が下がる」——。多くの人が漠然と、2020年が何か一区切りのようなイメージを持っているようだ。しかし結論を言えば、それはただのイメージにすぎず、特段の根拠はない。定期的にメディアから繰り出される「不動産市場はバブルだ! だからもうすぐ崩壊する!」といった論調の記事などを読んで洗脳されているのかもしれない。

「2020年」がなぜ独り歩きしているのか。1つはおそらく「東京オリンピック・パラリンピック」。1964年の東京五輪では、日本は高度経済成長の真っただ中。五輪に間に合わせるべく競技場や首都高などの道路、新幹線などのインフラを次々と整備し、経済の高揚とその後の落ち込みを経験した。

 一方で現在の日本は、すでに成熟した先進国。カナダやイギリスなど、過去に先進国で行われた五輪が、経済や不動産価格に大きな影響を与えた事例は確認できない。ロンドンオリンピックにおいては、英国政府が「オリンピックが不動産市場に与えた影響はなかった」とするレポートを公表している。2020年の東京五輪もおそらく、その前後で経済動向に大きな変化や不動産市場に大きな動きはなく、その影響が表れるのは、選手村ができる東京都中央区晴海など一部に限られるだろう。

 もう1つ連想できるのは「建設需要」。建築費は2013年以降20~30%程度上昇しており、現在も下げ止まりの兆候はないが、2020年のオリンピックが終われば建築費の高止まりも一服するのではないかといった予測だ。現にそういった期待から、大規模修繕を2020年以降に先延ばしするマンション管理組合も多くみられる。しかし残念ながら、それは期待外れに終わるどころか、建築費はさらに上昇していく可能性が高い。

 高齢化に伴う折からの建設職人不足で、2018年時点ですでに多くの建設会社が5年先程度まで受注の見込みを持っている。さらに、現時点ですら、多くの建設現場において工期の遅れが目立っている。

 例えば、新築一戸建ては通常3ヵ月もあれば完成するが、大工が確保できず、4ヵ月、5ヵ月、時にはもっと後ろ倒しになっている。都内のとある4棟新築現場では、大工が2人しか手配できず、6ヵ月たった今も完成していない。