発達障害を持つ人の就労移行支援を行うkaienのブリッジコンサルタント、東海林彩子氏は、「本人が『困っている』かつ『頑張っているのにできない』場合で、本人ももしかしたらと思っているときは伝えた方がいい。一方で、本人が気付いていなかったり、うまくいっていると思っているときは慎重になるべき」と話す。
周囲の困惑、トラブルが発生しがちなのは、働き始めてすぐのケースが多い。どんなサインが見られるのか、一部紹介しよう。
●上司や同僚にいつ声を掛けたらいいのか分からず、疑問が解決できないままになってしまう。
●段取りをつけることが苦手で、やらなくてはならないことがなかなか終わらない。
●休憩を終わらせるタイミングなど、周囲に合わせて頃合いを見て動くことができない。
●自分にさほど関係のない会議は聞いていなかったり、寝てしまったりする。
また、管理職になりたての人にも見られることが結構ある。発達障害の人は、マルチタスクの業務があまり得意ではないため、管理職業務に携わって初めて問題に直面するケースもあるからだ。管理職の場合には、こんなサインが見られるという。
●たくさんの業務があると、全てをカバーできない。
●指示を出すとき、相手の気持ちを酌んで気持ちよく仕事をしてもらうことができない。
●トラブルがあったときに、事の重大さを認識できない。
さて、こうしたサインから、部下の行動の中で気になるものがあるならば、上司は対応が必要だろう。たとえ発達障害と診断されていなくても、その傾向があれば、基本的な接し方は発達障害ではない人にも応用可能なので、ぜひマスターしたいところだ。
接し方のうち、最も大切なのが言葉掛けだ。困り事別に、言葉掛けのコツをお伝えしよう。
少しきつくても
伝えたいことをはっきり具体的に
言葉掛けの大前提は、とにかく具体的に話すことだ。例えば、「ちゃんとやっておけ」と伝えたとき、発達障害の部下は大いに悩むことになる。「ちゃんと」とはどの程度の仕上がりのイメージなのかが明確ではなく、「やっておく」というのも、まとめるところまでなのか、仕上げることなのか、あるいは上司に報告するところまでなのか、ゴールが示されていないからだ。
「そこまで言わなくても分かるだろう」と思っていると、無用なトラブルが起きてしまう。そうしたことを避けるために、伝え方のポイントをお教えしよう。
■構造化して話す
「今日の資料はここは良かったけどあそこが駄目で、修正してもらいたいんだけど、その前に最後のあの辺りをうまくまとめて……」などだらだら話すと、内容を覚えられなかったり、ポイントが分からなくなったりしやすい。「今日の資料で伝えたいことは2点。3ページ目のグラフの色を緑に修正して。理由は数字が見えづらいから。二つ目は……」ときっちり構造化し、要件の数・結論・理由を箇条書きのように言うと伝わりやすい。
■視覚的に指示する
聴覚より視覚優位で物事を覚える方が得意な人が多いのも発達障害の特徴の一つ。指示を出すときは、できるだけメールや紙に書く。また、段取りをつけるのが苦手な人には、図や表で示すのも効果的だ。「仕事の達成具合やその日のスケジュールを1時間単位で書き出すなど、視覚的に示すと伝わりやすい」(東海林氏)。
■具体的な数値で伝える
「ちょっと待って」「すぐ来て」のようなあいまいな言葉は、程度がつかめず、指示した通りに行動しにくい。「10分待って」「5分後に来て」と具体的に伝えるのがコツ。大きさや長さも同様で、例えば「長めの物差し」ではなく「30センチの物差し」、「大きめの封筒」ではなく「A4の封筒」などのように明確に示そう。
■見本を示す
プレゼンテーションのスライドや見積書などを「一から作っておいて」と任されると、どこから手を付けていいか分からず混乱することも。これは、何もないところから何かを考えたり作ったりするのが苦手だからだ。その場合、前任者が作ったものなどを見本として示すと、完成形のイメージが湧き、作業を進めやすい。
■“前提”を取り払う
場の空気を読むことが苦手な人に対しては、「言わなくても分かるだろう」と放っておかず、「ここでのルールでは、こうするんだよ」と明確に伝えよう。海外から来た人に「空気を読め」とは言わないように、共通認識のない外国人と同じだと考えるとうまくいくこともある。