日本はお互いの富を奪い合うゲームへ突入

 「長期・積立・分散」の資産運用は、経済成長によって増えたパイを投資した皆で分け合います。リターンの源泉は「r<g」だからです。

 しかし「失われた20年」で分け合えるパイがなかった日本では、投資家はお互いの富を奪い合うゲームに参加せざるを得ませんでした。そこには必ず、勝者と敗者が存在します。

 日経平均が長期的に上がらなかった日本では、「日経平均が安いときに買い、高いときに売る」という方針で株式投資をしてきた個人投資家がたくさんいました。日経平均は大きな振れ幅があり、値動きが大きいほど、成功したときのリターンも大きくなりました。この方針でいけば、日経平均よりも個別株やテーマ投信に投資したほうが、値動きが大きく魅力的になります。もちろん短期投資です。

 こうした取引の裏側では、何が起きているのでしょうか。

 ある株を安く買って短期間保有し、高くなったタイミングで売って利益を得たとします。日経平均が長期的に見ても上がらなかったという前提に立てば、取引の相手方は、高く買って安く売り、損をすることになったはずです。経済学ではこれを、「ゼロサム・ゲーム」と呼びます。利益を得た人と、損をした人がいて、全体としてのリターンはゼロだからです。まさにお互いの富を奪い合うゲームです。

 お互いの富を奪い合うゲームは熾烈で、神経をすり減らします。どうせ参加するなら、勝ったときの取り分が大きければ大きいほうがよい、と考える人が増えます。勝ったときのリターンを大きくするには、値動きがなるべく大きい投資対象を選ぶ必要があります。個別株やテーマ投信でも物足りなくなった投資家の前に登場したのが、より値動きが大きいFXであり仮想通貨だったというわけです。

 お互いの富を奪い合うゲームは、ごく一部の人たちに圧倒的な富をもたらします。一方、大多数の投資家は損を出して撤退します。一人の「億り人」を生み出すためには、単純に計算すると、10万円の損失を出す人が1000人必要です。多額の借金だけが残るケースもあります。こうした目に遭った人の体験を耳にすれば、「投資は怖い」と感じるのはもっともなことでした。

日本の資産運用は新たなステージへ

 私たち日本人に「投資が怖い」という感覚をもたらしたのは、お互いの富を奪い合うゲームとしての投資でした。勝つか負けるかの投資が怖いのは当然です。しかし幸いなことに、お互いの富を奪い合うゲームは、本来あるべき資産運用の姿ではありません。

 世界がグローバル化した今、日本でも世界を対象とした「長期・積立・分散」の資産運用ができるようになりました。富を奪い合うのではなく、世界経済の成長がもたらすパイを分け合う資産運用なら、投資した人が皆、豊かになることもできます。

 日本人がこれから実践すべき資産運用は、テーマ投信やFX、仮想通貨のようにお互いの富を奪い合うゲームではなく、海外の機関投資家や富裕層の間でスタンダードな「長期・積立・分散」の資産運用です。 お互いの富を奪い合う投資から、世界経済の成長を分け合う資産運用へ──。日本人の資産運用は今、新たなステージへと移行しようとしています。

(2)株式には配当があるので、仮に株価がまったく上がらなかったとしても配当分のリターンがあります。しかし、実際には、株式投資には手数料もかかるため、配当と手数料の両方を加味すると、25年間のリターンはゼロに近くなります(なお、1年後の2018年1月末で、日経平均は約2万3000円であり、1992年1月の日経平均を4・8%上回りました)。
(3) ゆうちょ銀行のWebサイトに掲載の情報を用いて算出
(4) IMF, World Economic Outlook Database, April 2018
(5) 物価変動の影響を考慮したときの世界経済の実質成長率は年3・7%
(6) 中国のWTO加盟に先立つ2001年11月に発表されたゴールドマン・サックスのレポートで最初に用いられた言葉で、世界経済の牽引役としてのブラジル、ロシア、インド、中国を指し、後には南アフリカも含まれるようになりました。
https://www.goldmansachs.com/our-thinking/archive/building-better.html
(7) 投資信託協会の統計データから分析。平均保有年数は、公募株式投信の純資産残高(平残)を年間の解約・償還額で除して計算されます。なお、公社債投信まで含めて計算すると、平均保有年数はさらに短くなりますが、株式投信だけで計算されることが一般的です。
(8) FXは、ドルやユーロなどの為替レートの変動などから利益を得ることを狙う金融商品です。
(9) 財務省貿易統計
(10) 2018年4月10日に金融庁が開催した「仮想通貨交換業等に関する研究会」において、一般社団法人 日本仮想通貨交換業協会が提出した資料。現物取引と証拠金・信用・先物取引の合計。https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20180410.html
(11) 同研究会に提出された資料によれば、2017年度の日本の仮想通貨取引額の69・1兆円の81・6%にあたる56・4兆円が、仮想通貨それ自体の取引ではなく、仮想通貨の値動きを的中させることで利益を得るデリバティブ取引となっています。デリバティブ取引では、値動きが的中すれば利益が得られ、外せば損失が出る結果となり、いずれの場合もブロックチェーンによる仮想通貨の決済は行なわれません。