(これ以上、母親に負担はかけられない)

 あやめさんは、自分の決意を母親に伝えた。

「バレエはやめます。やめる以上、もう一切やめて、関わりません」

新潟で芸妓さんと出会う
「踊りを習いながら仕事ができる」

柳都新潟古町芸妓ものがたり
『柳都新潟 古町芸妓ものがたり』小林信也著
ダイヤモンド社
1600円(税別)

 新潟に戻り、母が仕事の関係で知り合った、古町芸妓の福豆世さんと会い、食事をご一緒する機会があった。それが、あやめさんの新たな人生を決める大きな転機になった。

「柳都さんに面接に行ったら?」

 初対面の福豆世姐さんに勧められた。「柳都さん」というのは、古い置屋さんのシステムを打破し、新しい時代に則して、若い女性が安心して伝統ある芸妓の仕事に就けるよう、「会社組織で古町芸妓を養成し、管理運営して行こう」という趣旨で新潟の主要企業約80社が資本を出し合って設立した株式会社柳都振興のことだ。そのような試みは全国でも画期的。1987年に設立された柳都振興は、ずっと変わらない地元企業の支援にも恵まれ、着実にその目的を果たしつつあった。

(踊りを習えて、お給料がもらえる! 芸者さんというのは、つまり接客業ね?)

 柳都振興に入れば、踊りを習いながら仕事ができる。願ってもない仕事だと思った。

 すぐ面接に行き、翌年3月に入社が決まった。あやめさんは5月にお披露目をし、芸妓の道を歩み始めた。

「日本舞踊って、日本人のいい文化、古き良き心情が残っていますよね。便利な時代だけど、あえて手間のかかる方が選ぶ。面倒くさいけど、変えない。日本人として残して行かなきゃいけない<しきたり>を大切にするよさを私はすごく感じます」

 合理性を追求する西洋のバレエで育ったからこそわかる、一見不合理なしきたりに秘められた日本の心情の美徳を、いま、あやめさんは担って生きている。

(作家・スポーツライター 小林信也)