2018年12月15日号の週刊ダイヤモンド第一特集は「日産 最悪シナリオ」です。カルロス・ゴーン前会長の逮捕で揺れる日産自動車を、特集取材班が徹底取材。すると、ゴーン前会長を日産の絶対権力者に至らしめた要因には、人事・報酬制度にあることが見えてきました。日産改革の核心だったはずの制度の実態とは――。日産社員へのインタビューを交えながら、事件の背景を読み取った記事を、ダイヤモンド・オンラインで特別公開します。
「本社で見掛けることはほとんどなく、まるで幽霊のよう。最近はフロリダで釣りざんまいの日々を送っていたといううわさもあるほどだ」
日産の社員がそう声を潜める人物こそ、カルロス・ゴーン氏と共に逮捕されたグレッグ・ケリー氏だ。米国の弁護士資格を持ち、法律事務所での約8年間の勤務を経て1988年に北米日産に入社。組織内弁護士として法務や人事畑を歩み、2008年に執行役員、12年に代表取締役と驚異的なスピードで出世の階段を上っている。
当然のことだが、自動車メーカーである日産において、ケリー氏は車の販売や開発の実績はない。しかも本社にほとんど顔を出さず、多くの日産社員は面識すらない。そんなケリー氏が、ゴーン氏や西川廣人社長と同列の代表取締役に名を連ねていたことにこそ、今回の事件の遠因である日産人事のいびつさがある。
ある日産幹部は証言する。
「ゴーン氏は役員の人事権と報酬決定権の全てを握っていた。西川氏がCEOに就いて以降もそれは変わらなかった」
日産の役員はほぼ半数を外国人が占め、ケリー氏もその一人だ。ゴーン氏のお眼鏡にかなうような人物でなければボードメンバーにはまず入れないし、今回のケースのように、不正を一部の幹部が極秘裏に捜査当局に持ち込まない限り「必ずゴーン氏に握りつぶされる」(前出の幹部)体制になっていた。ゴーン氏が役員人事を完全に掌握していたことが、日産上層部の物言えぬ風土を醸成させていたといえる。