また、私たちのリサーチでは、「考え方の違う人と仕事をすることは気にならない」という項目に対する回答を、年齢別に比較したところ、[図表3-3]のような結果になりました。

「考え方の違う人と仕事をすることは気にならない」の割合

これを「ダイバーシティ許容度」だと考えるならば、その数値はまさに45〜60歳のミドル・シニア期にグッと低下し、「U字」を描いているのが見て取れます。ある種、考え方が固まってくる時期だからこそ、自分と価値観が合わない人と仕事をすることにストレスを感じるのでしょう。

「自分が若いころは、先輩が後輩を呼び捨てするのは当たり前だった。だから……」

この期に及んで、そんな思考をしてしまっていませんか?
それはあなたが「さん/くんシステム」に過剰適応した結果ではありませんか?
ぜひこの機会に、ご自身のダイバーシティ許容度を振り返ってみてください。

年齢にこだわる人ほど、次第に追い込まれる

「さん/くんシステム」、あるいは年下呼び捨てについて、私たちがここまでこだわる理由は、これが単に言葉遣いの問題ではなく、その背後にある年齢バイアスにも本質的に関わってくるからです。

年齢の上下にこだわるこの慣習は、上司・部下の関係にもネガティブな影響を与え、ひいては、個人の停滞感をも高めていることがデータからも示唆されていました。

パーソル総合研究所が行った「働く1万人の就業・成長定点調査2018」によれば、「自分よりも年下の上司のもとで働くことに抵抗感はない」と答えたミドル・シニア期の人は、約46%でした。裏を返せば、過半数以上の人は、自分よりも年下の上司のもとで働くことに対して、前向きにはなれないということです。「社歴が長い・男性・管理職」といった属性の人には、この傾向がとくに強く見られました。

「別に年齢なんて気にしない」と口では言っている人も、かつての自分の部下が巡り巡って自分のマネジメントや評価を担当するようになれば、やはり何かしらの"思い"はあるということでしょう。

そのとき重要なのは、その複雑な気持ちを押し殺すことではありません。年齢差へのこだわりを捨て、上司・部下の役割へと"切り替え"ができるかどうかです。

そのギアチェンジをしないまま、「先輩・後輩」だったころのかつての関係を引きずっていると、結果としては本人が損をすることになります。なぜなら、われわれが歳を重ねていけばいくほど、職場には年下の人が増えていくからです。年齢にこだわっている人は、まさにその価値観ゆえに、自分自身を「少数派」へと追い込んでしまうというわけです。

こうして年下の上司と衝突したり、周囲から煙たがられたりして、次第に身動きが取れなくなっていくと、ミドル・シニア期の人たちは徐々に「自走力」を失っていきます。

逆に、「年齢へのこだわり」をクリアできている人、すなわち、「年下とうまくやる」という行動特性が高い人は、結果としてジョブ・パフォーマンスの数値も高く出ることになった――これが私たちの分析です。

石山 恒貴(いしやま・のぶたか)
年下を「呼び捨て」にする会社員は、しだいに身動きが取れなくなる

法政大学大学院 政策創造研究科 教授
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科経営情報学専攻修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科政策創造専攻博士後期課程修了、博士(政策学)。一橋大学卒業後、NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。「越境的学習」「キャリア開発」「人的資源管理」などが研究領域。人材育成学会理事、フリーランス協会アドバイザリーボード、早稲田大学大学総合研究センター招聘研究員、NPOキャリア権推進ネットワーク授業開発委員長、一般社団法人ソーシャリスト21st理事、一般社団法人全国産業人能力開発団体連合会特別会員。主な著書に、『越境的学習のメカニズム』(福村出版)、『パラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社)、主な論文に"Role of Knowledge Brokers in Communities of Practice in Japan." Journal of Knowledge Management 20.6 (2016): 1302-1317などがある。