ここで、元先輩である田上さんを自分の部下として迎え入れることになったマネジャー・山下さんの事例を考えてみましょう。

当初、山下さんは「先輩部下」である田上さんには指示や指摘がしづらく、頼みやすい若手部下にばかり業務を振っていました。

一方、部下である田上さんのほうは内心、「どうしておれには仕事を任せてくれないのだろう……」と訝しんでいます。山下さんは先輩のキャリアを尊重して、なるべく田上さんの自主性に任せているつもりなのですが、彼のほうは「ひょっとして無視されているのだろうか?」とまで感じはじめました。
そこで田上さんは、意を決して山下さんに伝えます。

「おい、山下、ひょっとしておれに気を遣っていないか? おれはもうお前の部下なんだ。遠慮なく仕事を振ってくれよ!」

それを聞いた山下さんは、ホッとした表情で「田上さん、ありがとうございます!」と大きくうなずきます。それ以来、ほかの若手と同じように田上さんにも業務をこなしてもらうということで、双方は合意したのです。こうして、2人のあいだのぎこちなさは解消したかに思えました――。
しかしその後、ちょっとした仕事の進め方で、両者は衝突してしまいます。

「おいおい、山下、お前はリーダーなのに、そんなこともわからないのか! おれが若手のころに教えたことをもう忘れたのか?」

それ以来、この上司・部下の関係は、以前よりも悪化してしまいました。
山下さんは腫れ物にでも触るかのように田上さんから距離を置いています。田上さんはチーム内でも孤立してしまい、最近はやる気も感じられません。その結果、チーム全体の雰囲気も、なんだかどんよりしています。

「あいつも上司としては、まだまだだな…」

いかがでしょうか? 役職と年齢の逆転がある場合、このようなすれ違いが起こりやすくなることは、データからも読み取れます。

[図表3-5]は、ミドル・シニア期の人たちに、自分の上司の「マネジメント行動」について聞いた結果です。その際、「上司が本人よりも"年上”なのか"年下”なのか」で、「上司に対する評価のギャップ」を比較してみました。差が大きかった順に上位3つと、唯一逆転が見られた項目1つをあげてあります。

上司に対する評価

いちばん差が大きかったのが、「上司は仕事の目標を考える機会を与えてくれる」でした。それ以外にも、ほとんどの項目で「年下の上司」のほうが低く評価されています。
要するに、「上司が年下である人」ほど、上司に不満を抱いているのです。

そのなかで唯一、わずかながら両者の数字が逆転していた項目がありました。それが「敬意を持って接してくれる」です。「年下の上司」を持つ人は、そのマネジメント行動に物足りなさを感じながらも、上司がある種の「遠慮」をしてくれているのも察知しているようです。

しかし、このような「敬意≒遠慮」こそが、前述のすれ違いの原因なのだとすれば、どのようにして乗り越えればいいのでしょうか?