それ自体で完結した、時間の流れや歴史的な変化を考慮しない構造を分析しようとする構造主義は、生成や変化といったリアルタイムで進行しつつある出来事を扱い得ないものとして批判されるようになり、ポスト構造主義は20世紀の哲学全体に及ぶ大きな潮流となった。

 しかしながら、その後、世界の歴史は、1989年のベルリンの壁崩壊とそれに続く東西ドイツの再統一、ソヴィエト連邦の崩壊という大きな転換点を迎えることになる。こうした大転換期を経て、当時は自由民主主義こそが人類の平和と繁栄を実現するための唯一の選択肢であり、希望でもあるように思われた。

 ところが、2001年の同時多発テロ、2008年の国際金融危機(リーマンショック)へとつながっていくことで、人類がよって立つ、資本主義と自由民主主義という世界を支える二つの概念が大きく揺さぶられる中で生まれたのが、ガブリエルが主導する新実在論である。

 実存主義にせよ、構造主義にせよ、ポスト構造主義(ポストモダニズム)にせよ、その根底にあるのは、社会構造というのは人々が共同行為によって作り上げている夢のようなものであり、そこには当初から意味を持った現実など何もないという理解である。

 こうした前提に基づいて、人々は1960年代から1980年代にかけて、第二次世界大戦やベトナム戦争のような社会を抑圧する大惨事から逃れ、皆が自由になるために社会をどのように変えられるだろうかと構想したのである。

 そして、こうしたポスト構造主義(ポストモダニズム)の思想が経済体制として結実したのが、今のネオリベラリズム(新自由主義)であり、更に、この社会的現実など何もないのだというポストモダニズム的な思考を、政治の世界に持ち込んで大成功したのが、第45代アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプなのである。

ガブリエルの
新実在論のポイント

 ガブリエルの新実在論のポイントは、「本質主義(essentialism)」(個別の事物は必ずその本質を有し、それによりその内実を規定されているという考え方)対「相対主義(relativism)」(認識や価値はその他の見方と相対的関係にあるという考え方)という対立の図式から抜け出す第三の道を開くことである。

 この点について、立命館大学大学院准教授の千葉雅也による『半世紀もくすぶっていた難問に挑んだ「天才哲学者」驚きの論考』の解説が分かりやすいので、その一部を紹介してみたい。