過去の延長線上で考えない
――[3]空気を断ち切る思考の自由
空気=前提とは、ある種のしがらみであることもあります。
多くの知識や、過去の経緯などへの理解が、思考の自由を妨げるのです。ある意味で前提となる古い知識や体験が、創造的な発想や選択を不可能にしてしまう。
このような拘束は、累積した人間関係でも生み出されます。関係者が多いプロジェクトほど、失敗が明確になっても撤退が難しい「空気」を生んでしまうのです。
一方で、山本氏は本当の創造について次のように語っています。
あらゆる拘束を自らの意志で断ち切った「思考の自由」と、それに基づく模索だけである。──まず“空気”から脱却し、通常性的規範から脱し、「自由」になること(*5)。
創造的な発想や選択は、拘束としての前提もしくは「水」としての通常性からは生まれません。これらは、過去の延長線上に、思考を閉じ込めるからです。
そのため、前提による思考の拘束を消すため、まったくしがらみのない第三者ならば、現状をどう考えるかをイメージすることも効果的です。
僕らがお払い箱になって、取締役会が新しいCEOを連れてきたら、そいつは何をするだろう?(*6)
上の言葉は、インテルのCEO、アンディ・グローブが、競争力を失った半導体メモリ市場から撤退を決断するとき、自ら掲げた問いです。
インテルはメモリ生産にすでに膨大な投資をしていました。そのため、過去の経緯という前提に縛られ続けたら、撤退がさらに遅れて致命傷になっていたかもしれません。
グローブは、空気の拘束を消す問いをつくり、適切な決断を促すことができたのです。
*5 『「空気」の研究』 P.169
*6 リチャード・S・テドロー/土方奈美訳『なぜリーダーは「失敗」を認められないのか』(日経ビジネス人文庫) P.287