では、働き方改革について、どんな背景や論点があるのでしょうか。往々にして経営者と労働者、正規雇用者と非正規雇用者の利害がクローズアップされがちですが、戦後の労使関係を規定づけた「日本型雇用慣行」の限界を踏まえる必要があります。

 日本では、長らく人材評価を企業の「会社人」として総合的に評価し、会社が大切にする価値観や行動様式を体現しているかどうか評価することで、社内での序列を決めてきました(山田久『同一労働同一賃金の衝撃』)。

 これは終身雇用、年功序列、企業別労働組合の「3種の神器」の下、長期的な関係が続くことを想定しており、会社と従業員が共同体を構成する「メンバーシップ」のような状態を作り出していました(浜口桂一郎『新しい労働社会』)。

 言い換えると、従業員は人事異動や勤務地、待遇、残業、勤務内容などについて会社の命令を無限定に受け入れる一方、会社はメンバーシップに長くとどまる従業員に対し、賃金を後払い的に支払う年功序列型賃金と、在職年数に応じて出世させる人材登用で報いたのです。

 会社の命令に服従したり、上司の顔色を伺ったりする勤め人の悲哀を描いた映画としては、小津安二郎監督が1932年に製作した『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』や、1963年製作の『武士道残酷物語』など数多くありますが、以下は1964年製作の『君も出世ができる』という映画を取り上げます。

旅行代理店の
出世を巡るドタバタ

「君も出世ができる」ジャケット写真
「君も出世ができる」 好評発売中 発売・販売元:東宝

 映画の舞台は、「東和観光」という架空の国際観光を取り扱う旅行代理店。如才なく出世を目指すモーレツ社員の山川善太(フランキー堺)、少しボーッとした後輩の中井剛(高島忠夫)、社長の娘でアメリカ帰りの合理主義的な片岡陽子(雪村いづみ)、社長の愛人の服部紅子(浜美枝)などの間で、ドタバタが展開されます。ミュージカル調の音楽やダンスとともに、テンポ良くストーリーが進行するのも特色の1つです。

 まず、映画は冒頭、社宅から山川が出勤する場面から始まります。この時、山川は映画のタイトル通り、出世を生きがいにしつつ、そのために体を鍛えたり、ライバルを蹴落としたりする心構えをミュージカル風に歌っています。社宅に住み、出世を生きがいとしている時点で、山川は会社と従業員で構成する「メンバーシップ」での生活を送っていると理解できます。