会議の生産性を重視する会社では、「この問題は以前にも議論しているのだから、共通する部分は要点を確認するだけにしよう」といった端折り方をすることが少なくない。

 トヨタではこのパターンはやらない。たとえ以前と共通する部分があるとしても、その部分を含めて問題の原点から議論する。そのことを前提にして、参加者それぞれが改めて最初から考えるのである。

 会社であるからヒエラルキーは当然ある。トップダウンで物事を決め、社員に指示すれば効率はいいに決まっている。

 もしトヨタがそういう会社だったら、トヨタ生産方式はスムーズに機能しなかっただろうし、世界一になることなど、夢のまた夢だったに違いない。

 トヨタでは何か新しい仕事を始めるにあたって、できるだけ多くの社員が参加する会議で、仕事の目的や計画の中身を確認し、細かい進め方を話し合う。すべてがそうでなければならないというわけではないが、少なくとも強く奨励されている。

 議論に参加していない者が実行に携わると、仕事の目的や意義など基本的なことを十分理解していないのでミスが起こりやすいのである。

 できるだけ多くの人が参加し、時間の経過を気にしないで議論することによって、細部を含めた仕事全体を理解することができる

 そうしたベースがなければ、一人ひとりが「自分で考え」「自分でミスなく実行する」習慣は身につかない。トヨタの社員が一人前なるまでには、新人研修の段階からこうした経験を積んでいるのである。

労組が土壌をつくる
職場の話し合い

 時間がかかっても全員が納得するまで話し合い、それぞれが自主的に仕事を進めていくのが、トヨタ流である。そして、この話し合いの仕方をトヨタ社内に広げたのは、なんといってもトヨタ労組の取り組みが大きいのではないかと思う。

 労働組合の期の始まりは一般に9月である。9月に始まるトヨタ労組の秋は忙しい。運動方針研修に始まり、翌年春の労使交渉すなわち春闘の方針づくり、労働諸条件改定交渉の取り組みに向けた職場議論……という具合に、役員を中心に秋は議論ずくめ、話し合いずくめになる。

 とりわけ大変なのは、社員として職制の仕事をしながら多くの議論に参加する職場委員(各職場の組合員の代表)であろう。職場委員は、自分が所属する職場の意見をまとめるという大事な役割を担っている。