後者に関しては、「受験生が学部を選べないことがある」と小野氏は言う。

「たとえば『野球部は文学部に何人、商学部に何人』といった枠があって、『この子はこの学部に入れよう』という話になる。まったく興味がないのにフランス文学専攻に入るとなったら、不適応はどうしても起こってしまいます。一方で、学部の希望を持っている受験生が少ないというのも事実です。大学名だけを見て、そこに入れるならと考えてしまう。スポーツ推薦入試で入れるのはスポーツ科学部や体育学部だけという大学のケースも、本当の意味で学びたい学問を選べているのかという疑問は残る。たとえば将来は看護師になりたいと思っても、スポーツ推薦入試で看護学部に入れる大学はごくわずかなわけで、(特定の学部にしか入れないスポーツ推薦入試は)キャリア形成を阻害しているという見方もできるんです」

 スポーツ推薦入試で合格して大学に入学することで、学生が重い十字架を背負うことになるという側面もある。入学した以上は運動部に属さねばならないケースが大半で、ケガや人間関係の悩みなどに直面すれば、苦しい大学生活を強いられることになるからだ。思いきって退部しようものなら、今後は母校の高校からは入学させないといった話に発展する恐れもある。

 小野氏は「それ(十字架の重さ)を感じるのがいつなのかが問題」と指摘する。

「スポーツで大学に入学できれば、本人もうれしいし、保護者も安心する。母校にとっては進学実績になるし、大学はいい選手が獲れれば満足する。でも、今後起きうる困難を関係者がどれだけ想像できているか、そのうえで進路を選べているかが重要だろうと思います」

「ただの学生アスリート」で終わらないために
ときにはシビアな判断を

 そこでカギを握るのが、生徒を送り出す高校側のスタンスだ。

「高校段階で、競技者のキャリア問題の現実や大学とはどういったところなのかについて教えることが重要です。スポーツ推薦入試を利用しようと考えている高校生には、将来は中高の保健体育教師になりたいと考えている生徒が多くいますが、実際には保健体育教師になるのは狭き門。それでも、『なんとかなるだろう』と楽観視している高校生は多く、大学入学後に現実を知って『こんなはずじゃなかった』となることも。高校の教師や指導者は、目指す職業と大学の学部の情報について生徒に考えさせる機会を与えることが大事だと思います。それが大学での不適応を防ぐ方策の一つになるはずです」