「言葉の数」ではなく「言葉の重さ」が大事

 これは、交渉の場でも同じだ。
「弁舌巧み」と言えば聞こえはいいが、ペラペラとしゃべり続ける人の話は、実は、聞き流されているものだ。それよりも、口数が少ない人の発言のほうが、相手は真剣に耳を傾けてくれる。そして、その発言が的を射たものであれば、「百の言葉」を連ねるよりも、交渉に大きな影響を及ぼすのだ。

 もちろん、社交的で多弁な人は、そのスタイルで交渉に臨んで一向に構わない。ただし、重要な局面を迎えたときに、今まで話していた態度、伝え方、話し方をガラッと変えて、「これから先は真剣な話をする」というスタンスに切り替える。そうすれば、無口な人と同等のインパクトを、相手に与えることができるだろう。

 ともあれ、交渉を決するのは「言葉の数」ではない。
 ここぞというときに発する「言葉の重さ」なのだ。

 想像してほしい。
 相手が自らの要求を弁舌巧みに主張し続けたとしよう。こちらは、押し黙って耳を傾けている。そのとき、相手は、自分が優勢に立っていると感じているかもしれない。しかし、それが理不尽な要求であれば、こちらとしてはただ一言、“NO”と言えば足りる。

 理不尽な要求に対する反論の根拠が明確にあれば、その“NO”には力がこもるはずだ。その力さえ伝われば、相手はひるむ。その瞬間、弁舌巧みに披露した「百の言葉」の軽さが露呈するだろう。そして、“NO”という一言に込められた重さが、交渉の場に強い影響力を発揮するのだ。