そして羽田空港で地上係に聞いたところ、「外にタクシーが止まっているので、ご自由にご利用ください」と言うではありませんか。もちろん「自腹で」です。近くのホテルの部屋を確保してくれるなり、せめて都心までシャトルバスを用意するのが普通だろうと思いましたが、それよりも驚いたのが、乗客の誰も文句を言っていないということでした。韓国だったら、航空会社に対して大騒ぎをしていると思います。なぜ日本の消費者は怒らないのでしょうか? これでは航空サービスが良くなるはずもありません。

 韓国は、国連の電子政府ランキングでここ数年、1位が定位置になっていますが、当の韓国国民は、まったくそういった実感を持っていません。住民票などのさまざまな手続きが自宅のパソコンから簡単にできたり、行政サービスの手続きが簡単であるということも、慣れてしまうと当たり前になる。そして、もっと質が高く、便利なものを求めるようになります。

 こうして、サービスを提供する側と、サービスを受ける側が刺激しあって情報化を促進し、全体が良くなるのです。まずは消費者が賢く、貪欲になる必要があります。不便で高コストのサービスを我慢することで、結局損をするのは消費者なのです。

「コンピュータ化」と「情報化」

 昔は、農水産業、製造業、流通業、運送業、サービス業など、さまざまな業種の1つとして、並列して「情報通信産業」がありました。しかし今は違います。複数の業種は繋がっていて、境目がほとんどありません。特に情報通信は、すべての業種と繋がっており、密接に関わっています。既存のビジネスとITを融合する「ITコンバージェンス」という概念が非常に重要です。

 ITコンバージェンスを考えるうえで、「電算化」と「情報化」を一緒にして考えてしまっている人が非常に多いのですが、これはまったく別のものです。

 電算化は、人間が行っていた単純反復的な作業をコンピュータに置き換えるだけです。日本ではまだこちらの発想が多い。一方、情報化は、一度既存の仕組みをゼロにして、枠組みから新たに考えなおすものです。最初にご紹介した、改札のないKTXがこれにあたります。

 電子行政の例に照らし合わせると、「いつでもどこでも住民票が取れる」といったことを目的にするのは、真の情報化ではありません。これは単なる電算化です。

 そうではなく、そもそも住民票というのは、公的機関や金融機関など公共性の高い機関での手続きのために必要ということが多い。であれば、A区に住む住民がB区役所でA区の住民票を取得して目的の機関に提出する、というようなことではなく、A区役所と提出先の機関が直接やり取りできるようなシステムにするべきであって、公的機関同士の連絡作業に、わざわざ当の住民を煩わせる必要はないはずです。

 表面的な多少のコスト削減に惑わされるのではなく、業務全体を変えることによってサービスを良くし、業務効率を上げてコストも下げる。これが真の情報化なのです。消費者側もそれに早く気付き、「わがまま」になって、真の情報化を求めていくことが必要でしょう。