40年ギャップ――。いま、こんな考え方が教育関係者の間で広まっています。
教育者は、これから20年後の時代を見据えて、子どもたちに必要な教育カリキュラムを考える。だが、子どもを預ける親たちは無自覚のうちに、自分が受けた教育をよしと考えてしまう。教育者は20年後を、親は20年以上前を判断基準としてしまうので、教育者と親との間には40年間のギャップが生じている、というのです。
しかし、世界中が直面するこの「ギャップ」を見事に埋め、見事に教育を立て直した国があります。そう、エストニアです。孫泰蔵さん監修の新刊『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた つまらなくない未来』より、現地取材で実現した公立学校での「ロボット授業」の風景から、これから日本でも始まるであろう「プログラミング教育」で子どもは何を得られるのかこれからの子どもに必要な能力は何か、考察します。

授業で開発したレゴのロボットを走らせる生徒たち

タリンの公立学校で行われる
8歳からのロボット開発授業

「やったー! 先生見てよ、できたよ!」

 エストニアの子どもが両手を挙げて、飛び跳ねて喜んでいた。自作のロボットがうまく障害物をよけてゴールしたからだ。

 ここは、タリン第21学校(Tallinn School No 21)。1903年に設立された伝統のある公立学校だ。この学校でロボット開発の授業があると聞いて、見学させてもらった。

 教室の入り口には「LEGO education innovation studio」と書かれた看板があった。教室に入ると、その中心にはロボットを動かす作業台が置かれ、その周囲には材料となるレゴブロックやプログラミング用のノートパソコンがあった。

 作業台をのぞくと、そこには白地のシートに黒線が引かれ、おもちゃのタイヤが障害物として積まれていた。ここはロボットが走るサーキット場だったのだ。

 子どもたちは、パソコンでプログラムを組み、レゴで組み立てたロボットを動かしていた。コントローラーがあるわけではない。子どもたちの手から離れたロボットは、自律的に障害物をよけたり、物をつかんだりして、ゴールに向かっていった。

 ロボットが思い通りに動かなかったら、子どもたちはパソコンに戻り、プログラムを改良。そして、うまくいったときは大きな声を上げて喜ぶ。教員が1人1人のペースに合わせて声をかけながら授業が進んでいった。

 タリン第21学校は、小・中・高校一貫教育を行っており、40クラス以上計1300人超の生徒が学ぶという、エストニアでも珍しい大規模な学校の1つである。

 エストニアでは、7歳から9年間の義務教育が行われる。初等レベル(小学校)が4年間、中等レベル(中学校)が5年間だ。その後、高校(3年間)、大学と進む。

 この第21学校では、8歳からロボット開発の授業が必修科目だ。対象は、第3学年から第6学年で、週1回45分のコマである。筆者が見学したのは12〜13歳の授業風景だった。

 このロボットは、レゴ社が提供するプログラミング教材を用いている。ロボットの外側はレゴブロックで組み立て、ソフトウエアで制御するのだが、これを独自の教材として開発したのが教員のラスマス・キット(Rasmus Kits)だ。

 ラスマスに授業の目的を尋ねると、彼は「ロボット開発を教えることそのものが授業の目的ではないのです」と答えた。その目的は大きく2つあるという。

 まず、生徒たちが大人になったときに備えることだ。「洗濯機すらもスマートフォンで操作する時代になるわけですから、プログラムがどのように動いているのか理解しておく必要があります」(ラスマス)。つまり、コードを書くとプログラムとしてどう動くのか、その構造を理解するということだ。

 次にラスマスは、課題解決方法としてのプログラミング的な思考力を身につけてもらいたいと述べる。

「生徒たちは今後、人生において大きな課題に立ち向かうことになるでしょう。そのとき、大きな課題を小さく分解して、解決する力を身につけてもらいたいのです。それはコンピューターのアルゴリズムを体系的に考える力が役に立つでしょう」

 ラスマスは、エストニアでも珍しく、IT業界から教員へと転身した人物だ。大病を患ったとき、エストニアの無料医療システムに救われたといい、その恩返しとして子どもたちの教育に携わりたいと考えたという。

 30代も後半になって教員になったラスマスは「1コマの準備に4〜8時間近くがかかるし、教員というのは簡単な職業ではないですけどね」と笑うが、そんな熱心な教員が現場を支えている。

 このように、ロボット開発を授業で取り入れるなど先端的な教育を行うエストニアにいま、世界的な注目が集まっている。