「AI、ロボットで雇用はどうなる?」
「インターネットが当たり前になった世界で、必要な教育って?」
「グローバル化×都市化×デジタル化で、地方にまだ可能性はある?」
「貨幣、政府、個人情報……電子化がこれ以上進んで大丈夫なの?」
「課題先進国」と言われつつも、その課題に答えを出せないまま、AIやブロックチェーンというテクノロジーの変化にのまれつつある日本。しかし、私たちと同じような課題を抱えつつも、日本の10年、20年先を行くような未来を描いている国があります。それが、エストニアです。同国は人口約130万の小国ながら、行政手続きの99%を自動化するなど「電子政府」としての基盤を確立し、ユニコーンと呼ばれる評価額10億ドル以上のベンチャー企業を次々と輩出しています。
そんなエストニアの現地を徹底取材し、孫泰蔵さんの監修で刊行された『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた つまらなくない未来』。今回、同著に登場する起業家たち3人に、改めてインタビューすることができました。
1人目となる今回は、「未来の教育」に挑むEesti(エースティ)2.0のエデ・シャンク・タムキヴィCEOが登場。日本とエストニアの教育システムの意外な共通点、そして両国の教育システムが抱える問題に、エストニア教育シーンの最前線に立つ同氏が切り込みます(文:齋藤 アレックス 剛太)。

どうすれば、子どもの可能性を無限に引き出せる?<br />テクノロジー教育の最前線で見つけた「未来の教育」エデ・シャンク・タムキヴィ(Ede Schank Tamkivi)
Eesti2.0 CEO。メディア学、人類学を専攻した後、テレビ・ラジオ番組のコンテンツ制作を経て、テクノロジーの分野に興味を持つ若者を支援するためのNPO法人Eesti2.0を設立。これまでに50台以上の3Dプリンターをエストニア中の学校に寄贈している。日本とも馴染みが深く、孫泰蔵氏が創設したVIVITAにも3Dプリンターを寄贈した。(撮影:小島健志)

「できるかどうか」ではなく「どうやったらできるのか」
子どもの可能性を引き出すために私たちができることとは

――まず最初に、ご自身とEesti2.0の紹介をお願いします。

 Eesti2.0 CEOのエデと申します。Eesti2.0は、テクノロジーの分野に興味を持つ若者を支援するためのNPO法人として、約3年前に活動を開始しました。これまでに50以上の学校に3Dプリンターを導入し、またブロックチェーンに興味を持ってもらうことを目的に、ビットコインを学習することができるコンピューターの導入にも取り組んできました。

 2年前からは、より子どもたちに寄り添って支援できるよう方針を変え、サマーキャンププログラムを開始しました。主に14~19歳の学生が参加する1週間のキャンプでは、1人ひとりが「世界をよくしたい、課題を解決したい」という気持ちをもとに、実際のプロダクト開発に挑戦します

 メンターとして、Taxify(注:タクシファイ。東欧やアフリカを中心に世界26ヵ国以上に拡大している配車アプリを展開)TransferWise(注:トランスファーワイズ。日本を含む59ヵ国以上で利用できる国際送金サービスを展開)といったエストニアを代表するスタートアップのメンバーが参加しており、参加者はプロダクト開発の第一人者たちのフィードバックを受けながら開発に取り組むことができます。

 このサマーキャンプの成果は、すぐに出ました。私たちは1年目から目を疑うような素晴らしいアイデアを見ることができたのです。あるグループは、指紋で解錠することができるバッグを開発しましたし、別のグループは化学を楽しく学べるVRキットを開発しました。

 このように、子どもたちの可能性は無限大です。私たちは、そのことを子どもたちに教え、「できるかどうか」ではなく、「どうやったらできるのか」を常に伝えています。

――「どうやったらできるのか」を考える。たしかに課題解決のためには必要な思考法ですね。電子国家としての基盤も、そのような考え方の産物ではないか、と感じています。ではなぜエストニアでは、そうした先進的な思考法が定着しているとお考えですか?

 それを語る上でのキーワードは、「サイズ」です。人口約130万人のエストニアでは、小国であるがゆえに、すべての取り組みをスピーディーに進めることができます。このことは、新しいことを試すサンドボックスの場として、エストニアが最適であるということを示しています。

 たとえば、私たちはi-Voting(電子投票)をはじめとする電子政府システムを導入しています。他国の人はこれらのサービスを夢のようなものだと思っているかもしれませんが、私たちは当たり前のように使っているのです。これは国のサイズを活かして、私たちが素早くアクションをとった結果だと思っています。

 そしてこれは、教育についても同じことが言えます。新しい機会があれば、私たちはいつでもテストする事ができます。そして、もしエストニアで実験してうまくいくケースがあれば、日本などの外国にコピーして適用することもできるのです。

――確かに、日本の人口規模はエストニアの100倍です。

 はい。それに中国やインドと比べると、エストニアは村みたいなものですからね(笑)