緩和ケアが十分に行われない不思議
「延命第一」に染まる医師たち

 これほど多くのがん患者今でも痛みから解放されていないのは不思議だ。なぜ、緩和ケアが十分に現場で行われていないのか。

 医療用麻薬の使用量が異常に少ない事実が挙げられる。欧米諸国に比べわずか10%前後にすぎない(図5)。医療用麻薬とは、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルのこと。いずれも強い麻薬で、WHO(世界保健機関)による緩和ケアマニュアルでは、鎮痛薬処方の「三段階除痛ラダー」で最終の第3段階で使うとされる。

「麻薬中毒になるのでは」と患者や家族の間で、また医師にもまだ忌避感が強いためだろう。

 緩和ケアへの基本的な理解不足も指摘される。「WHOが緩和ケアを定義しているが、それすら知らない医師もいる」との声も聞かれる。その定義は、「生命を脅かす疾患に直面する患者とその家族に対し、痛みや身体的、心理社会的、スピリチュアルな問題に的確に対処することで、苦痛を和らげ、QOL(生活の質)を向上させるアプローチである」。

 また、WHOは緩和ケアについて具体的に「痛みやその他の苦痛な症状から解放する」「生命を尊重し、死にゆくことを自然なことと認める」「死を早めたり、引き延ばしたりしない」「QOLを高める」などを挙げている。

 痛みだけでなく心理的、社会的なストレスにもきめ細かく配慮し、QOLを高めよということだ。延命処置ではなく自然な死を目指し、QOLを第一に考えねばならない。先述のアンケートの「人として大切にされた」という設問につながり、今回調査の重要なポイントになる。

 病院など医療機関で緩和ケアが浸透しない理由として、自然な死につながるQOD(死の質)への理解不足を挙げる声もよく聞かれる。「終末期に入っても栄養分を投入し続ける延命処置への依存体質」が医療界を覆っているのは確かだ。

「救命、延命が使命」と徹底的に教育課程で教え込まれる医師にとって、自然な死はなかなか受け入れ難い。「痛みが出るのは抗がん剤が効いている証し」「治療に痛みは付きもの」と平然とうそぶく総合病院の医師も多い。延命第一に染まってしまうと、患者の生活感やQOLは二の次になりがちだ。

「大量の点滴を続けながら緩和ケアに取り組むようでは、到底痛みは除けない」と在宅医は指摘する。患者の老衰過程をずっと診てきた在宅医は、本人に寄り添う緩和ケアに熟達している。「がんも含めて終末期の痛みはほぼ完全に取り除くことができる」と、みとり件数の多い診療所の医師たちは異口同音に断言する。