D社労士はうなずきながら話を聞いていた。

「それで、お前はどう対応したの?」
「決まっているじゃないか。課長たちにAのアパートまで迎えに行かせたよ。忙しいのに休ませるわけいかないよ」

 D社労士は慌てて口をはさんだ。

「おいおい…、会社のしたことはとてもマズいよ」
「えっ、どこがマズいんだ?」

 D社労士はその理由を説明した。

(1)Aは感染力が強い病気(インフルエンザ)に罹っており、他の社員への感染やAの病状悪化を防ぐため、会社はAを出勤させてはならない。Aを出勤させることは労働安全衛生法違反になる。
(2)インフル感染したAに対して出勤を強要させることは、パワハラでいう「過大な要求」にあたる。そして出勤したために病状がさらに悪化した場合、会社は安全配慮義務違反に問われる。

 C社長はこの説明を聞き、仕方なさそうな顔をした。

「気合で治させようと思っていたけど、無理だなあ。Aはしばらく休ませるよ」

D社労士がさらに
指摘したこととは?

 D社労士は続けた。

「もう一つ気になるのは人手不足。残業あるよね?」
「もちろん」
「月にどれぐらい残業させているの?」
「正確にはわからないなあ。社員はみんな会社にかなり寝泊まりしているよ。ウチの会社は、希望社員全員に高級寝袋を支給しているんだ。俺も使うけど、寝心地良くて最高だぜ」

 D社労士はさらに尋ねた。

「タイムカードはないのか?」
「あるわけないだろ。ウチは完全成果主義なんだから。結果が出れば給料は大幅UP。だからみんな必死で頑張ってるよ」

 D社労士は会社の賃金台帳を見せてもらった。確かに業績がいいだけあって、社員の給料は全体的に高い。ちなみにAの先月分の給料は70万円だった。D社労士は続けた。

「確かに高給かもしれないけど、これだけ働いていたらお金使うヒマないでしょ?」
「お金がたまっていいじゃないか。社員たちは台場にタワマン購入、外車をブンブン乗り回しているぜ。みんなリッチで幸せだ」
「給料が高ければいくら働かせてもいいってもんじゃないよ。社員の労働時間と休日の管理はしっかりやらないと法律違反だぞ」

「また法律違反かよ…」
「そうだよ。社員の健康を害することがないように配慮するのは会社の義務だから」