社会規範が市場規範に変わり
罰金を払えば義務を果たしたことに

 一体どういうわけなのだろうか。その理由は、心理学でいう「社会規範」と「市場規範」という2つの行動原理で説明することができる。

 定時に迎えに行かなければならないというのは「ルール」だ。仮に明文化されていなかったとしても、みんなで守らなければならない性質のもので、これが「社会規範」といわれるものだ。

 一方で、遅れたら1時間につき10ドルの罰金が科されるということになると、「みんなで守らねばならないルール」という考え方から、「遅れても1時間10ドル払えばいい」、さらには「1時間10ドル払えば時間外でも預かってもらえる」という発想に変化してしまう。

 つまり、それまでは遅れることに後ろめたさがあったのに対して、罰金制度が始まった途端、「払いさえすれば義務は果たした」という気持ちになるというわけだ。こうした行動原理が、「市場規範」といわれるものだ。

 すなわち「1時間=10ドル」という市場価格を支払うことによって、遅刻することに対する“心の免罪符”を手に入れることができわけだ。

 この場合でいえば、「やってはいけないこと」を「社会規範」で縛っていたにもかかわらず、意図せざる結果ではあるが、「市場規範」に変えてしまったのだ。ところが、これを逆に利用することで、抑止効果を持たせることもできる。それが次の例だ。

 あるところに老人が住んでいた。家の前に空き地があって、子どもたちが毎日遊びに来る。大声で騒いでうるさいので、「あっちへ行きなさい」と言うものの、なかなか子どもたちは言うことを聞かない。

 そこで一計を案じた老人はある日、子どもたちを集めてこう言った。