国家という枠に縛られず
日本の地方と世界が直接結びつく

 パラグ・カンナは『接続性の地政学』で、「グローバル経済の時代には、国家という枠に縛られることなく、近接した地域同士で経済圏を形成するようになる」と論じている。日本の地方自治体も、国の機嫌を取り続けるのが最善の道ではないのではないか。

 例えば、北海道はサハリンの天然ガスで儲けたらいい(第90回)。日本海側の自治体は、ウラジオストックなどと「環日本海経済圏」を作ればいい。大阪や九州は、香港、シンガポール、インドネシア、上海、深センなどと直接ビジネスをやればいい。

 決して荒唐無稽な話ではない。いまや、地方空港はどこも国際便がある。仁川や上海から、観光客が地方に直接来ている一方で、中小企業が商機を求めて海外に向かっているではないか。規制ばかりで縮み志向の東京の役人に、無理に付き合っていてもつまらない。成長著しいアジアなどの熱気に目を向けることだ。「遠い東京」よりも「近い外国」と一緒に儲けることが、これからの地方分権の自然なあり方だと考える。

 いや、今後は地理的な近接さすら、関係なくなっていくのかもしれない。実は「地方創生」で、先駆的な事例が存在する。岡山県西粟倉村が行うICO(Initial Coin Offering)である。ICOとは、企業や団体がブロックチェーン上でコインやトークンを発行し、その対価として投資家から仮想通貨を得るという資金調達方法だ。

 もちろん、仮想通貨に対する不信感は根強いし、西粟倉村の取り組みが成功するかどうかは不明だ。しかし、青木秀樹村長は、日経新聞の取材に対して「国内外からお金を集められるICOの仕組みは魅力的だ」と断言している(日本経済新聞「自治体初のICO 岡山・西粟倉村、地方創生の財源に」2018年7月25日)。

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 もし、さまざまな地方自治体がICOを行い、成功すれば、中央官庁が地方を財政的に支配できなくなるだけにとどまらない。中央銀行による通貨発行権が揺らぐ可能性がある。つまり、国家が存在する意義自体がなくなるということもありえる(野口悠紀雄「仮想通貨は地方自治体の新たな財源になるか」)。

 この連載では、日本人だけが活躍する「一億総活躍」など、狭量な考えだと論じたことがある(第125回・P.5)。インターネットと輸送手段が高度に発達したグローバル社会では、世界中の誰でも日本に来てビジネスができる。いや、日本に来なくても世界のどこにいても日本と繋がれる。日本の地方の自然の美しさや、文化や特産品に関心を持ってもらえれば、世界中から日本にアクセスしてもらえるし、それを守り、育てるための資金調達に協力してもらえることもありえるのだ。

 つまり、日本という舞台で、「一億」という日本人だけではなく、世界の「70億人」が活躍し、豊かになれるという「七十億総活躍社会」を目指すべきだ。そして、それは日本という小さな島の中を支配することばかり考える中央政府からではなく、地方から打ち出していくべきである。

<参考文献>
小磯修二,村上裕一,山崎幹根(2018)『地方創生を越えて―これからの地域政策―』岩波書店
パラグ・カンナ(2017)『接続性の地政学』(上)(下)原書房

(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)