20世紀型リーダーシップの鎧を脱ごう!

おじさん管理職がゆとり世代に歯が立たない理由 本荘修二
『離職率75%、低賃金の仕事なのに才能ある若者が殺到する 奇跡の会社』監訳者
新事業を中心に、日米の大企業・ベンチャー・投資家等のアドバイザーを務める。多摩大学(MBA)客員教授。Net Service Vetures、500 Startups、Founder Institute、始動Next Innovator、福岡県他の起業家メンター。BCG東京、米CSC、CSK/セガ・グループ大川会長付、投資育成会社General Atlantic日本代表などを経て、現在に至る。『エコシステム・マーケティング』(ファーストプレス))など著書多数。訳書に『ザッポス伝説』(ダイヤモンド社))、連載に「インキュベーションの虚と実」「垣根を超える力」などがある。

清水 100ページ読み進めたところで、あらためて気づきました。そうか、この本は単なる教科書や起業家のサクセスストーリーではない。アクションを起こした結果、どのくらい効果が得られて、どんな失敗、副作用があったかまでちゃんと書いてあるんですね。

本荘 清水さんの悩みと重なる部分があったんですね。

清水 そうなんです。一番、心に刺さったのは、働く人をみじめにする3つの要因について書かれた箇所ですね。

無評価:パフォーマンスが評価されない
匿名性:貢献したことがリーダーに認められ、理解される機会がない
無関係:自分の仕事が相手にどんな変化をもたらしているか、なぜ重要なのかわからない

マイシェフクイックのサービススタッフも、ひとりで現場に直行、直帰するので、運営側としてはなかなか評価、フィードバックがしづらい。上司も先輩もいない状況のなかで辞めてしまう人もいて、経営者としては頭を抱えていたところでした。

本荘 彼女はお客に掃除について4段階で評価したうえで、その理由をコメント欄に書いてもらうことにしました。すると、多くの人が、スタッフの仕事がどんな変化をもたらしたか具体的に説明してくれた。「子どもと過ごせるようになった」とか「家事をめぐる喧嘩がなくなり、夫婦仲がよくなった」とかね。最高評価のケースはオフィスの壁に掲示しました。

清水 うちでは、お客様がInstagramに料理写真をアップされていることも多く、「おいしかった」「後片付けもしてもらえて助かった」など感想が書かれていると励みになりますから。クリステンさんのやり方もさっそく参考にしたいと思いました。

この本でもうひとつ、興味深かったのはクリステンさんの「共感力」の高さ。人に嫌われることを恐れ、強く出ない彼女のリーダーシップは、正直、違和感があったのですが、「じつは共感力こそこれからの組織運営においてきわめて重要な資質なのでは」と思いました。

リーダーといえば、男性はどうしてもカリスマ型リーダーをイメージしやすいですが、これからの組織はカリスマ型では限界がある。ゆとり世代は「承認してもらいたがる」「仕事に意味を求める」というけれど、それは40代も60代も同じで、本来誰しも持っている願望だと思うんです。彼女のように、誰かを応援し、その人の成長を心から喜べるタイプこそ、今後求められるリーダーなのでしょう。

本荘 女性リーダーの特徴かもしれませんね。アメリカの研究では、女性比率が一定以上の組織のほうがパフォーマンスが高いことがわかっています。女性のコミュニケーション力がプラスに働くんでしょう。男はどうしても他人に対して鎧を着るところがありますから。

清水 まずリーダーが鎧を脱ぎ、自己開示することで、相手との信頼関係も深まる気がします。グーグルがマネジメントで重視している要素に、「心理的安全性」(メンバーが安心して自分をさらけ出せること)がありますが、クリステンさんは、鎧を脱いで心理的安全性を高めるアプローチをいろいろ試しているんですよね。自分のように20世紀に生まれ育ったおじさん起業家、管理職にとっては、すごく新鮮で、学びに満ちた取り組みだと思います。

本荘 20世紀の日本企業は、そもそも心理的安全性を築くのは上手だったはずなんですけどね。ホラクラシーで知られるザッポスを日本人が見学に行くと「あら、なぜ日本人が? 運動会をやったり、社員同士、家族ぐるみで付き合ったりしてすごく家族的なんでしょう?」って驚かれたりする。我々は効率化を追うあまり、コミュニケーションをさぼりすぎたのかもしれませんね。

ところで、苦笑いしながらこの本を読み終わった今、清水さんはどんなことをやりたいと思っていますか?

清水 こんなふうに違和感を抱きつつ読める本、つまり従来の自分の価値観に抵触する本ほど学びになると思っています。その意味でクリステンさんのチャレンジにはモヤモヤしつつも、すごく刺激を受けました。

今後は外出しづらい人々にもっとマイシェフクイックのことを知ってもらい、活用していただきたいですね。同時に、自分の世界を広げたい人にサービススタッフとして活躍してほしいなと。しばらく前に自分のスキルを活かしてボランティア活動するプロボノが話題になりましたが、好きなことで社会貢献できる場所として、どんどんマイシェフクイックを活用してもらいたいです。